ブリッジタウンからパースへ:ハーヴィーでラクダに遭遇

翌朝。ぐっすり寝てからまた昨日のパン屋で珈琲と焼き立てパンの朝食。
今日はパースまで帰らなければならないので、8時にはもう出発してしまった。ここはブラックウッド川のほとりで、天気がよかったら散歩に来られた場所だが、雨のせいで泥んこのぬかるみだ。写真だけは撮ったけれど、散歩は今度来たときまでおあずけとなった。

バリンガップ(Balingup)の向かう途中は美しい丘陵地帯が広がっていて、ワイナリーのぶどう畑がまだ葉もついていない枝を伸ばしていた。雲はまだ多いが、少しずつ晴れ間も見えてきている。

バリンガップはパースから240キロほどの位置にあり、人口はなんと450人に満たない小さな町だ。ただし、8月26日と27日の週末には中世カーニバルが開催されて、この小さな町は観光客であふれかえる。中世の衣装を着たひとびとが狭い町のそこここで談笑したり酒を飲んだり。わたしが着いたのはその一週間前の週末だったが、町はそれでも飾り付けが始まっていた。

次の週末に行われるパレードにはこの人形たちが一斉に参加する。

こちらはメイン道路の反対側に並ぶ小さな手作りの店、マッサージ、自家製オリーブオイルの店など。

パース近郊では見られないゆるやかな丘と曲がりくねった道。まるで以前住んでいたスイスのように、その起伏を楽しんだ。

この近辺はやはり小さなワイナリーが多い。小さなワイナリーと言うと、西オーストラリアではブドウを生産してそのまま大きなワイナリーに売るという副業をしているところもある。ブドウの木々はまだ枝のみで葉は全くついていない。

バリンガップから13キロほど行くと、隣町のさらに小さい町キラップ(Kirup)が現れる。果樹園とワイナリーが主な産業だが、西オーストラリアではキラップ・シロップといういわゆるポートワインで有名だ。

いや、ポートワインと言っても普通のワインよりかなりアルコール濃度が高く、知らずに飲むとかなり酔っ払ってしまうという話は同僚たちから聞いていた。この居酒屋ではそのキラップ・シロップが飲めるそうだが、朝10時の、しかもこれからかなり長旅なのにそんな強い酒を飲むのは少々気が引けて、今回は断念した。次の機会に。

お次はダニーブルック(Donnybrook)に立ち寄った。ここは西オーストラリア州リンゴ産地の中心として有名な町だ。ここらへんからすでに小雨が降り出し、空にも雲がまた広がってきた。

季節が違えばりんご狩りの観光客が週末にあふれる町だ。やはり冬は何の行事もなく、ましてはこの天気では少々寂しい。…と思ったら町の広場に何やらバイクとひとが沢山。

なんだかどれもずいぶんと古いモデルだし、失礼ながら集まっているひとたちも中年から老年がほとんどだ。白髪(と白ヒゲ)が目立つ。

このバイクなんかロシアのURAL(ウラル)だそう。1930年代のBMWモデルをコピーしたので、一応新車(だが古そうに見えるのはデザインが古めかしいから)。実際は2WDなのだが、オーストラリアは左側がサイドカーなので改装備しなければならず、ここではバイクのみでサイドカーにはエンジンがついていない。
彼らは皆バンバリーからのツーリングクラブメンバーで、週末になるとこうやってツーリングを楽しんでいるらしい。このウラル以外はそのほとんどが1950年以前のものでクラシックカーならぬクラシックバイクだった。皆自分のバイクがご自慢で、ちょっと挨拶をすると気さくに色々なことを話してくれるのでとても楽しかった。

もうひとつ見つけたのは同じ駐車場の片隅にあった電気自動車用の充電ポスト。パースにもあるらしいがまだ見たことはない。電気自動車さえ見たことがないので、こんな田舎に…とビックリしてしまった。こうしたごく小さな町ではひとつだけ充電ポストがあれば充分だからかもしれない。

ここからは一気にハーヴィー(Harvey)まで走った。面白いことに、ドニーブルックを出て15分ほど行くともうすでに馴染みのある風景が広がってきた。ゆるやかな丘陵地帯から地平線まで見える真っ平らへ。遠くには豆粒ほどの牛の群れが見える。

ハーヴィー(Harvey)はパースからは約150キロほど南に位置し、町の人口は約5000人。畜産業と酪農業がこの地域の主な生産品だが、ハーヴィー・ビーフは西オーストラリアでは一番の生産量を誇り、そのクオリティーは高く評価され、実に80%が海外に輸出されている。

もうひとつ有名なのがオレンジとミカン。ハーヴィー産のオレンジジュースは西オーストラリアのどこのスーパーでもよく見かける。ハーヴィーの観光センターにはカフェと果樹園があり、ここのオレンジとミカンはたわわに実っていて「これは採って食べちゃってもいいのでしょうか」とカフェで訊いたら、「もちろん!」という答えが返ってきた。そして、その成果がコレ。ウチに帰ってから食べてみた。ジューシーではあるけれど、とても甘いというほどではない。

オレンジ園の側には梅の花が開いていた。寒さは変わらないけれど、植物は敏感に風や温度を知って花をつけるのかもしれない。

観光センターにはこんなものまであり、どうしても顔を突っ込みたくなるのはわたしの悪いクセ。

観光センターの先にはStarling Cafeという小さなカフェが庭に向かって張り出しており、ここでは簡単なランチも供している。時間があれば、ゆっくりお茶でもしたいところだ。

さて、ハーヴィーの有名人と言えば絵本作家のメイ・ギブス(May Gibbs)だ。19世紀後半に、地元の花や植物を擬人化して可愛い絵本を描いていたひとだ。観光センターには彼女の絵のコピーが看板になって飾ってあった。

絵本やペーパーバックは観光センターにも売っていたが、肝心の美しいカラー挿絵つきの絵本は売り切れで、見本の擦り切れたものしかなくて残念。これはパースで買い求めようと思う。

最後の中継地はハーヴィー・チーズの店。スーパーにも置いてあるくらいの有名なチーズだが、ここにしかないフレッシュなフェタチーズなどもあり、試食してからいくつかチーズを購入し、外に出るとなんとエミューがいるではないか。

チーズの店にエミューというのも変わっているが、その反対側の大きな放牧地を見たら…ラクダがいる。

なんでこんなところに。のんびりと草を食んでいたが、その後ろにはヒツジまでいる。こういうどこにでも動物がいるのが、オーストラリアの田舎の楽しいところ。

もう少しゆっくりしたかったけれど、すでに午後も3時を回っている。パースまではまだ2時間かかるので、そのまま州道に乗って一気に北上。

ドニーブルックまではのどかな丘陵地帯で、おまけに家ひとつない森を突き抜けているときには携帯まで使えなくなることが多かった。
が、ハーヴィーを過ぎると、すでに「都会」だ。携帯で聞くストリーミングの音楽が途切れることもなく、FMも局数が多くなってきた。どんどんと家が増え始め、道が広くなり、車の数も比較にならないほど多い。気がつくと、すでに見覚えのあるパースの南側に入り、自宅ももうすぐだ。

今回の二泊三日の旅はメインがトリュフ狩りだったため冬を選んだが、そうでなければ雨のない季節にトレッキンシューズ持参で、「歩く休暇」としてもう一度来てみたい。マンジマップからペンバートンまで足を伸ばせば、森林と丘陵の美しい地域だし、小さなワイナリーも沢山ある。

日本のガイドブックには全く載らないような遠い田舎の小さな旅だが、こうやって何に当たるかわからない道中も気楽で楽しいものである。

マンジマップのトリュフ狩り:試食タイムとトリュフづくしのランチ

写真は今日のトリュフ狩りでの収穫。土を落としてきれいにしてある。小さいのから大きいのまで色々あった。

測ってみたら全部で294.5グラム。ここで直接購入できるトリュフは1グラムで2ドル(約180円)なので、全部買うと5万4千円ぐらいということになる。

トリュフの賞味期限は短い。生で食べて美味しいのはせいぜい2−3日。密封すれば1週間は持つ。保存方法は色々あるが、脂肪分の多いブリーなどのソフトチーズを半分に切って間に挟むというやりかたでトリュフチーズをつくることもできる。ただし、これも2週間保存が限度。味見させてもらったが、確かにトリュフの風味が損なわれず美味しい。

もうひとつは、湯煎にしたバターに細かく練り込んでトリュフバターを作る。これも保存方法としては便利だし簡単だ。

こちらも風味がバターに移って非常に美味しい。
トリュフオイルなどというものが市販されているので、それも保存方法かと思い聞いてみたら「ああ、トリュフオイルなどというのはまがい物。よくバニラエッセンスなどという香り付けだけに使う人工香料があるでしょう?あれと同じ人工香料を使っているだけ。ホンモノのトリュフでオイルは作れないから」とのこと。つまりオイルの中に入れて保存というのは真っ赤なウソらしい。オリーブオイルで保存できるのかと訊いたら「無理」と言われた。オリーブオイルは匂いが強すぎるのでトリュフの香りと相殺されてしまうという。
トリュフソルトという塩に細かいトリュフ片を混ぜ込んだミックスも売っているがギャヴィンは鼻で笑う。「2週間しか香りがもたないトリュフで1年以上もほうっておける塩ミックスなんかできるわけがない。くずトリュフを見えるように混ぜて人工香料を振りかけただけ」

その代わり、トリュフウォッカは保存方法としては一番長くもつ。スライスしたトリュフをウォッカの10%の分量で加え、冷暗所で保管。1週間ぐらいから飲むことができる。カクテルもできる。ブラックウォッカ・マルティーニなんか美味しいよ、と言われた。今回は、ギャヴィンが自分でつくったトリュフウォッカを試飲させてもらった。

ウォッカではよく果物やチョコレートなどで香り付けをされたものが売られているが、これはまさしくトリュフの香りがぷんと鼻をつく。

ギャヴィンのところではトリュフスライサーも売っていた。スライスする厚みが調節できて便利にみえたが…これで50ドル(約4500円)もする。まさかそんなにスライスするほどのトリュフをいつも買うわけではないし、ウチには性能のいいスライサーもあるのでこれは購入を断念。

結局ウチに帰ってからウォッカとチーズはやってみたいので、今日皆で収穫したもののうちひとつだけ買った。36.5グラム、約6500円。

真空パックにしてもらい、保冷剤を入れて発泡スチロールの箱に梱包してもらった。ギャヴィンが言うには「これなら3日は大丈夫」とのこと。

途中ギャビンの牧場の側を通ったら、牛にじぃっと睨まれた。うわ。

牧場の先には春の訪れを知らせるワトルの黄色い花が満開だ。気温はまだ上がっていないけれど、春は確実に近づいている。

もうすでに1時半を超えていたがお腹は空いている。マンジマップの街中へ戻り、ギャヴィンお勧めのパブレストラン「Tall Timbers」へ。広くて天井が高い。

ここではデラックスハンバーガーというものがある。何しろトリュフのスライスが8グラムも乗っているスペシャルだ。前日のとんでもなく不味いハンバーガーを思い浮かべて、「リベンジのハンバーガー」として注文してみた。ほとんど4000円近いが、ここまではるばるパースからやって来て本場のトリュフを満喫せずして何としようぞ。

ハンバーグはきちんと自家製、ビートルートもクリーム状にしてあり、チーズはスライスしたチェダーチーズ。上にはスライスしたトリュフがこれでもかと乗っている。そしてフライドポテトも皮付きポテトをそのままビールと衣に浸してあげたウェッジだ。外はカリカリ中はホクホクである。
目の前に置かれただけですでに芳醇なトリュフの香りにやられてしまった。前にも書いたとおり、パスタの上にヒラヒラと散っているくらいのトリュフしか食べたことのないわたしなので、こんなに沢山食べていいのかと思うほどの量だ。

トリュフは「味」を楽しむというよりは、その「香り」を楽しむものだ。確かにこのハンバーガーは今まで食べたことのない香りに包まれていて、昨日のあの酷いハンバーガーを忘れるには充分すぎるくらい。トリュフがなくても、その味は前日のものとは比べ物にならない。ただし、トリュフ以外も「オーストラリア風大盛り」なので、サラダとフライドポテトは半分ほど残してしまった。

ワインとともにゆっくりと食事をしていたので、マンジマップを出たのはすでに4時近い。
ホテルに帰ってから水を買いにぶらぶらと歩き、昨日のEmporium Bistroで珈琲を飲んだあとは、地元のテレビをつけっぱなしにして読書三昧。ランチが大きすぎたので夕食は抜き。いずれにせよ、やはり少し疲れていたのか、10時前には寝てしまった。

マンジマップのトリュフ狩り:手と指で掘り起こすトリュフの香り

まずは基礎知識からということで、ギャヴィンというスコットランド系のオーストラリア人、そしてマンジマップのトリュフ共同事業責任者でもあるひとが今日のガイドとして自己紹介し、トリュフとはなんぞや?から話が始まった。

まあ難しいところはすっ飛ばして、要するにトリュフとはきのこの一種なのだ。正確に言えば、子囊菌類セイヨウショウロ科の地下生きのこで、朽木などに生息するきのこ類とは違い、木の根に寄生するジャガイモのような形。
キャビア、フォアグラと並ぶ世界三大珍味のひとつで、レストランなどではヒラヒラとかろうじて見える耳カス(失礼)くらいの大きさでパスタなどに散らばっている。

トリュフ生産というが、正確にはトリュフ「採集」だ。マンジマップの冬は雨が多く、寒くジメジメしているが、その土地がトリュフの生育によく合っているらしい。
気の長い話だが、まずフレンチオーク、イングリッシュオーク、またはヘーゼルナッツの若木の根一本一本にトリュフの胞子を植え付けて埋める。やがて1年または数年後そこにトリュフがひとつでき、そうしたらしめたものである。その木の根には次の年にはふたつのトリュフができ、そのまま毎年増えていくのだ。当然、全く胞子が育たない木もある。そんな「当たるも八卦、当たらぬも八卦」で人工栽培が不可能なのだから、価値が高騰するのも当然と言える。

そうしてできたトリュフだが、残念ながら地中10−15センチに生息するため、どこにあるか人間には見えない。シャベルなどで掘り起こしたらせっかくのトリュフに傷がついてしまう。そこで登場したのがメス豚だった。ここらへんが非常に面白いのだが、トリュフのあの独特の香りはオス豚のフェロモンに大変よく似ているのだそうだ。つまりその匂いをたどってメス豚がトリュフのありかを見つけるのだ。最大の難点はそのメス豚がトリュフ自体を食べてしまうこと。その前に無傷のまま掘り起こすのはさぞ大変だったことだろう。

そして登場したのが犬だった。犬は人間の120000倍もの嗅覚を持っている。しかも嗅覚が「鋭い」だけではなく、その嗅覚で場所、モノの判別、形などの人間なら写真でしかわかることのできない知識さえ得られるという。発情期のメスなんか、オスの犬には8キロ先からでもわかるらしいから驚く。

トリュフ探しの訓練は犬にとっては遊びだ。子犬のころから匂いと場所で訓練を受け、長い時間をかけてトリュフ犬として成長する。犬にはトリュフを食べることに興味はなく、見つければもらえる「ご褒美のスナック」のほうが魅力的なのだ。
ギャヴィンの飼っているトリュフ犬は6頭。全てラブラドール・レトリバーの大事な家族だと紹介された。最年長のヴィーヴァは17歳のメス。今回はこの一番経験のある彼女がわたしたちのガイドとなった。

さて、ブナの木、ハーゼルナッツの木などが植えられた植林地に行くと、すでにヴィーヴァがふんふんと匂いをかぎながら木々の間を歩いて行く。17歳と言っても元気なものだ。大事にされているのだろうな。

そして何かが見つかると、2−3回そこの土を掘る動作をして座り込む。ギャヴィンはそこを手で少しずつ少しずつ掘っていき、匂いを嗅ぎ、また掘る。トリュフがあるところは突然匂いが変わるからわかるのだ。トリュフの形がわかったら、大きく円を描いてそれ自体に傷をつけないようにそっと掘る。ヴィーヴァはご褒美のおやつをもらったら側に待機して、ギャヴィンが掘り終わるまで待つ。

出てきたトリュフはこんな形。

そのあとは見つけるたびにグループの中から何人かが掘ってみて、トリュフを掘り起こす。歓声があがり、皆で記念撮影。いや、楽しい。小雨が降ってきたがそんなことはあまり気にならないくらい、楽しい。

最後にヴィーヴァが木の根元をささっと掻いたときには、「わたしも!」と手を挙げた。指と手を使ってそろそろと掘って行くがなかなか見つからない。

「ヴィーヴァ、もう一度教えて?」と言うと、彼女はまた前足でそっと位置を確認してくれる。本当に「ここ掘れ、ワンワン」だな。まるで花さかジーサンになったような気分で、掘っては匂いを嗅ぎ、掘っては匂いを嗅ぎ…としていたら突然手のなかの土の匂いが変わった。トリュフの香りだ。これだ。そこを集中して掘っていたら、頭が現れ、ついにわたしもトリュフをひとつだけ獲得。

果樹園のリンゴ狩りやらピーチ狩りと違ってそのまま持って帰れないので、渋々ギャビンにそれを渡した。

手は爪の中まで真っ黒だ。それでも皆と記念撮影。

トリュフ狩りは1時間半ほど続き、その後は農場に戻ってお待ちかねの「試食タイム」になった。