軽いオレンジヨーグルトケーキをチョコレートでくるむ

昨晩、日本人だけの「しゃぶしゃぶパーティー」に呼ばれた。

ひとを夕食に呼ぶというのは準備だけでも大変なので「デザートはわたしが」と申し出ておいたが、土曜日は色々と用事があって帰ってきたのはすでに午後。いつも行く手作りパンとお菓子の店で買ってしまおうかとも思ったが、子供のいる家庭なのでやはり大きめのものをささっと作ってしまおうということに。

オーブンは180度に温めておき、その間に次の材料を集めて全部混ぜ合わせる。
削ったオレンジの皮 2個分
オレンジジュース 大さじ2
卵 2個
砂糖 1.5カップ(注:オーストラリアのカップは250mlなので375ml)
べジタブルオイル 3/4カップ(=188ml)

次の材料を加えてまた混ぜる。
ナチュラルヨーグルト 1カップ(250ml)
小麦粉 2カップ(500ml)茶こしなどで濾しておいたほうがよく混ざる
ベーキングパウダー 小さじ3
塩 小さじ1

いつものわたしの料理はいいかげんな目分量だが、さすがにケーキやパンのときはきちんと計量している。ここまでいいかげんにすると、ふくらまなかったりふくらみすぎて割れたりすることもあるからだ。
ただし、わたしはベーキングパウダーは使っていない。オーストラリアにはSelf Rising Flourというすでにベーキングパウダー入りの小麦粉が売っているからだ。ケーキを焼くことの多い国ではこういうものがあって便利だ。マフィンなんかもこれでさっとできてしまうしね。

さて全部混ざったら、バターを塗って小麦粉をはたいた20cmのケーキ型に流し込んで、オーブンで45分。この時間はオーブンのくせにもよるので、表面がきれいな焼き色になって楊枝がすっと通ったら出来上がりだ。これだけでも美味しいし、粉砂糖をふりかけただけで立派なケーキに「見える」が、今日は招かれた家に持っていくのでチョコレートでコーティングすることにした。

冷ましているあいだにリンツのダークチョコレート75%を刻み、それだけじゃ足りないのでオレンジダークチョコレートというヤツも少し足して、全部で200gほどボウルに入れておく。

クリームを200−250gほど用意して火にかけ、ボコボコと煮立ったらすぐにチョコレートにかけて8の字に混ぜ合わせていくと、とろりとした艶のあるチョコレートクリームに…というよりちょいとサラサラしたソースと言うべきか。

冷ましたケーキを網にのせ、下にはベーキングペーパーと皿を敷いて、さあこれからが楽しい。チョコレートソースを真ん中にたらーりたらーりと垂らしながら、スプーンの背で伸ばしていくのだ。表面から垂れたチョコレートを側面になでつけ、まんべんなくチョコレートがついたら出来上がり。

上にちょんと乗っているのはオレンジの皮。これは本当なら砂糖とコアントローに水を加えてからちょっと煮てからめたほうが美味しいのだが、時間がないので省略、飾りとしてそのままちょんと載せただけだ。
こういうところは臨機応変というか、ズボラだよなあ…。

切り分けた写真がないのが残念だが、中はスポンジケーキのように淡い黄色で所々オレンジの皮がきれいな色を添えている。バターを全く使っていないので、どちらかというと軽い(つまりいくらでも食べられる)ケーキだが、オレンジとチョコレートはとてもよく合うし、ヨーグルトでふわりとした食感だ。

今回は珍しくレシピのように計量も載せているが、見てのとおり恐ろしく簡単で、焼いたり冷ましたりする時間も入れて2時間ほどしかかかっていない。つまり作っている時間は30分もない。このぐらいだったら、「忙しくてケーキを焼くヒマもない」という言い訳にもならない。

まだ中ほどは温かくチョコレートもとろとろしたまま持参したが、しゃぶしゃぶを食べ終わったあたりにはちょうどいいぐあいに柔らかく固まっていてホッとした。

Sue Lewisの至福のチョコレート

パースで「Sue Lewisのチョコレート」と言ったら、「あんなに美味しいチョコレートはない!…高いけど」という答えが返ってくることが多い。
その名高いショコラティエの店は、わたしのお気に入りのレストランPetitionが入っているState Buildingの表の地下にある。ビル自体は重厚で歴史的な建物だが、小さくて目立たないし、外に何も飾りのない看板がそっけなく置いてあるだけなので、気をつけていないと通り過ぎてしまいそうな店だ。

スー・ルイスのチョコレートは甘みを極力抑えていて、オーストラリア人の砂糖をどっさりいれたお菓子の好みからすると、異端のチョコレートと言えるかもしれない。それでも彼女がショコラティエとして有名なのは、そのハーブや果物などの新鮮な材料との組み合わせ、そして全く防腐剤を使わない手作りの姿勢にあるのかもしれない。

今回買ったのは、カルダモンと薔薇の花びらのホワイトチョコレート、そしてチリとカカオフレークのダークチョコレートだ。

白いチョコレートは赤い薔薇の花びらが映えて美しいし、歯ざわりもいいわたしの大好きな1品。そして、普段あまりダークチョコレートは食べないのに、この舌にぴりりと来るチリが楽しくて今回もまた買ってしまった70%カカオ入りのダークチョコレート。

もうひとつわたしの目を引いたのは、丸いブラウニー。

こちらは中にプラリネチョコを入れて焼き上げ、上には塩味ピーナッツが散らしてある。ダークチョコレートとこのピーナッツの塩味が何とも言えない風味で、ねっとりとしたカカオの香りとともに、ああ、至福の瞬間。

どれも防腐剤を使っていないので「早めにお召し上がりください」と念を押されたが、3日と立たずにすっかりわたしの胃の中に収まってしまったのは言うまでもない。

情けは人のためにならないのか

夕暮れの街を走っていて、遠くにパースの高層ビルが見えているのを写真に撮ってみた。パースは東京と違い、まだ空が大きい。

………

「情は人の為ならず」ということわざがある。

現代では間違って使われていることが多く、文化庁の調査では実に75%以上のひとたちが「ひとに情けをかけることは、結局そのひとのためにはならない」という意味で使っているという。実際の意味は「ひとに情けをかければ、結局は巡り巡って自分のためになる」で、全く違う場面で示さなければならないことわざだ。

元々は仏教の教えで、「善因善果・悪因悪果・自因自果」という因果の道理から来ている。結果には必ず原因があるし、原因が「善」ならば善い結果となり、「悪」ならば悪い結果になるのは当然、自分の結果(=未来)は自分のしてきた行為がつくりあげたもの、というのが因果の道理である。

ことわざには時に全世界共通の言い回しで、言語が違えど同じ意味を持つものがかなりある。

英語では普通「A kindness is never lost」だの「Charity brings its own reward」だのというが、最近では「Pay forward」というのが同じような意味で使われているような気がする。「Pay forward」は文字通り「先払い」の意味だが、つまり「親切の先払い」として、例えば持ち帰りの珈琲を買ったときにホームレス用の「珈琲貯金」にコインをひとつ入れたりする。そうすると、店のひとが近くに来たホームレスのひとに「Pay forwardの珈琲があるから、飲んで行きなよ」と言うわけだ。

パースではPay It Forward Perthという団体がフェイスブックのページを作っていて、そこでは様々なひとたちが主旨に賛同して見知らぬ人たちへの支援とプレゼントを勧めている。壊れたコンピューターを修理して、買えないひとたちにプレゼントするひともいれば、子どもたちに絵本をあげるひとたちもいる。ちょっとしたお菓子を作って見知らぬ老人へのささやかなプレゼントとするひとたちもいる。

親切は巡り巡って何かの拍子に思いがけないところから自分に戻ってくるという、優しさの先払いとそこにこめられた希望。コミュニティー、社会共同体としてのあるべき姿をそこに見てはいけないだろうか。

日本ではこのごろ「自己責任」という言葉が横行し、ベビーカーの母親や高齢者に舌打ちをし、それどころか助けを必要としているのに見ないふりをするひとがいる。「ひとに情けをかけることもない」となったということか。それなら、「情けは人の為ならず」を全く反対の意味に解釈するひとが増えたのも当然かもしれない。

今の世相を暗示しているようで、わたしにはとても笑えないのだった。