がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

エカマイ・パークレーンの白金・酉玉

エカマイもわたしが住み始めたころに比べると、あれよあれよと言う間にスタイリッシュなレストランやカフェ、ショッピングセンターなどがずいぶん増えた。歩いて行けるほど近い場所にも素敵なレストランが色々とあり、最近では遠出をしなくとも近所で間に合わせることが多い。

さて、今回はバンコクに住むスイス人ビジネス旧友から聞いた「白金・酉玉(しろかね・とりたま)」だ。日本人だけではなくタイ人も白人の客もかなりいるようで、和食・焼き鳥の威力を感じる。
パークレーンというスーパーとブティック、そしてレストランの集まった雑居ビル内にあり、エカマイ通りに面した「折原商店」という日本酒バーの裏にあるレストランだ。

焼き鳥というより落ち着いたクラブのような雰囲気で、低く流れている音楽もゆったりとしたジャズだ。居心地がいい。日系の会社がいくつか予約していたようで、立ちんぼでの名刺交換やお辞儀が繰り返され、ここらへんは「和風ビジネス接待」の模様が懐かしい。

メニューはもちろん焼き鳥が主で、鶏の部分の名前と説明が詳しく、わたしもずいぶん知らない部位が沢山あってビックリ。今回は「シェフのおまかせコース」の焼き鳥10本というセットを注文してみた。どんなものが出てくるか興味があったからだ。

おまかせコースには、大根おろしと豆腐の冷奴がセットでついている。なんだかシンプル過ぎて芸がないなあとは思ったが、箸休めにはちょうどよかった。

おまかせコースには他のものがついていないので、取りあえず「海苔サラダ」を。レタスとキュウリのサラダにたっぷり刻み海苔が載っていた。名前どおりなのだが、これもシンプルすぎてちょっと当てが外れた気分。そして、どこから何を取ろうとも絶対に海苔がハラハラと万遍なく四方八方に飛び散る盛り付け。うーん。

さて、焼鳥だ。これはやはり鶏肉の選択と新鮮さで他店とは比べ物にならないくらい美味しい。

つくねとズッキーニ。

ささみの三つ葉巻きと柔らかいもも肉(だと思う)。

ここらへんから次々に出てきて何が何だか。でも、美味しい。

砂肝とうずらの卵。

こちらは追加で注文した銀皮という砂肝のみみ。柔らかくて味も濃い。こういう珍しい部位も別々に食べられるところがやはり専門店だなあと感心してしまった。

そして、こちらがスイス人2人が同時に注文した「ラクレットチーズのいなり包み」。そりゃラクレット自体がスイスチーズなので、本場からきたひとたちはどうしても試してみたかったらしい。

わたしもひとくちだけかじらせてもらったが、これは…失敗だった。パリパリになった油揚げは歯ざわりがいいのでよしとしよう。だが、油揚げの内側に貼り付いてやはりパリパリになったラクレットは、率直に言って香り以外は焼きすぎて油が出てしまいチーズの原型をとどめていない。つまり「ラクレット味の油揚げ」でしかない。これには「スイスチーズの専門家たち」の顔がみるみると曇ってしまい、彼らは何も言わなかったがたぶんラクレットチーズの量があまりにも少ないのと焼きすぎたのが理由だと思う。ラクレットは分厚く切って温めるとびよーんと伸びるほど柔らかく弾力が出るのが特色で、焼きすぎると脂分が分離してカラカラに乾いてしまう。これなら他のチーズを使ったほうがよかったのではないか。ほかのものが美味しかっただけに残念だった。

味に関しては(ラクレットのいなり包み以外は)満足だったが、サービスでひとつだけ、そしてここを手放しでお勧めできないのはそのせいなのだが、改善してほしいことがあった。
10本コースなら1本ずつ焼きたてを食べられると、客は普通思う。食事というのは酒を飲み、会話を楽しみ、そして焼きたての焼き鳥をつまむことだと、普通は思う。特に「高級」を冠した焼き鳥専門店と言うからには、客のペースを見て焼きたてを供するサービスを期待している。

ところが、それがこの店ではできていない。

焼き鳥は焼けた順に次々と皿に載せられ、それも一度に2−3本ずつということが多かった。楽しみながらひとつひとつつまむと言うより、背中を押されているような気分だ。最後の1本が来て「これで最後です」と言われたとき、わたしの皿の上にはサラダをつまんでいる間に冷めてしまった焼き鳥がまだ4本も残っていた。
結局最初の1本から10本目が来るまでの時間はたった30分だ。これでは食事を楽しむどころの話ではない。大勢で来て色々と注文する焼き鳥とは違い、これはコースだ。つまり、客は出てきた全ての10本をひとりで食べなければならない。3本同時に来ては、どれかひとつは確実に冷めてしまう。

「おまかせ」というのは店の自慢の新鮮なものをあしらったコースなのだから、もう少し気配りが欲しかったし、客が焼き鳥を焼き立てのまま食べられないのは店にとっても残念ではないのか。

つまり、「冷めた焼き鳥を食べるくらいなら」アラカルトで1本ずつ注文したほうがよかった。また行くことがあればもう「おまかせコース」を注文しないのは確実。最後に追加で注文した「銀皮」は焼きたてを楽しめたし、「ラクレットチーズのいなり焼き」は反対に15分ほど待たされたのだから。

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