がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

「奥様は魔女」の衝撃の事実

まだわたしがとても小さかったころ、「奥様は魔女」というアメリカのコメディドラマがあった。もちろん吹き替えで、「奥様の名前はサマンサ…」で始まるそのドラマは、アメリカという国がまだ遠い彼方であったころのわたしに、若くしがないサラリーマンさえ立派な一戸建ての大きな家に住み、わたしの部屋より大きなキッチンを持てることを教えてくれた。

玄関のドアを開けるとすぐに居間があるという米国式の家も目新しかったが、ちょっと上を向いた鼻をもごもごと動かして魔法を使うサマンサはとてもチャーミングだった。
今晩、友達と三人で中華の焼鴨にかぶりついていたとき、その中のひとりが鴨からにじみでる油で唇をてらてらと光らせながら言った。
「ねえねえ、今度ニコール・キッドマンが “Bewitched”のサマンサ役をやるんで、鼻をもごもごさせる練習をしているんですって」
「へええええ、懐かしいドラマだ。僕が子供のころのテレビドラマだよね。まだ、白黒だったし」

“Bewitched”(魔法にかけられて)ってなんだろう、なんだか聞いたような話だな、と考えたときにちょうど思い出した。「奥様は魔女」だ。
「あ、知ってる知ってる、それ。奥様の名前はサマンサで、旦那様はダーリンって言うんだよね。わたしも小さいときに見たよ」
「ダーリン?」友達が二人とも、変な顔をしてわたしを見た。
「うん、ダーリンでしょ? サマンサがそう呼ぶのが可愛かったよね」
「それさあ、ダーリン(Darling)じゃなくって、ダーレン(Darren)でしょうが」
「はあ?」

そして、わたしはウン十年目にして初めて、そのサマンサの旦那様の名前がDarlingではなく、Darrenだと知ったのだった。
いくら小さいからと言って、Darlingが「あなたぁ」ってな愛をこめた呼びかけであることくらいわかっていたから、サマンサが甘い声で彼を「ダーリン」と日本語で呼ぶとき、コメディだからそんな名前の旦那様なんだ、と信じきっていた。そして、それはその当時「奥様は魔女」を見ていた日本の視聴者たちにとっても同じだったろう。
ああ、こんなところにもRとLの違いのない日本語の限界が横たわっていたのだった。
友達に説明すると、二人とも腹をかかえて笑い出した。

「でもさあ、ドラマの中でそのダーレンの会社の上司やその奥方や友達だって、彼のことをダーリンって呼んでいたわけでしょ。可笑しいと思わなかったの?」
そう言われりゃあ、変だよなあ。

 

7 COMMENTS

すがちゃん

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ああ・・・なるほど ワラ そうだったのか。ダーレン
ちなみに白黒は見たことないです。 ニヤリ

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entee

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それは確かに「衝撃の事実」。
でも、「会社の上司やその奥方や友達だって、彼のことをダーリンって呼んでいたわけでしょ。可笑しいと思わなかったの?」ですが、おかしいと思わないんですよ、実際。コメディだし。彼はみんなの永遠のDarlin’で、言ってみれば、バカボンのパパが、永遠にバカボンのパパであるようなものです。だから、これからも彼はDarlin’でありつづけるのです!(思考停止っ!)
それにしてもニコール・キッドマンがサマンサとは! それって彼女がテレビ出演するってことですかね。それとも単発の映画? ニコール・キッドマンはあまり興味ないけど、彼女の「鼻」は端正で色気ありますよね。
あと、別の衝撃の事実。サマンサ役を演っていたエリザベス・モンゴメリーですが、彼女はゲイやエイズ関連の活動家でもあり、晩年は「イラン・コントラ事件の陰で」とか「嘘まみれのパナマ戦争」などの反政府系ドキュメンタリー番組のナレーションなどもやっていた。1995年にガンで死去。ご存知でした?
上の二つはDVDの「テロリストは誰? What I’ve Learned About U.S. Foreign Policy

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がび

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>すがちゃん
途中からカラーになったような気もするけど、覚えてないなあ…。
>entee
ニコール・キッドマンの「映画」らしいですよ。彼女、オーストラリア人だからこちらではニュースがはやいのかな。(いつもニュースでは遅れをとる豪州も、ローカルならまかしとけってか…。)
わたしは、あのひとの声が好きです。
エリザベス・モンゴメリがそんなことやってたなんて知りませんでした。DVDまで出ているんですね。

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ash

初めまして もう10年も前のこの記事に、今更コメント失礼いたします

奥さまは魔女、子供の頃はサマンサ(サム)をなんとも思わなかったし、
サマンサのわれた顎はイマイチ好きになれなかったのに、
大人になった現在、サムを超々好きになっちゃってDVDも入手しちゃいましたあ〜〜

ニコール・キッドマンも好きですが、現代と過去は数多くの様々なモノやコトがちがうし、
エリザベス・モンゴメリーもサマンサのイメージの払拭に悩んだと聞きますが、
サムのかわいらしさはエリザベス・モンゴメリーにしか出せないと思うし、
奥さまは魔女のサマンサは、エリザベス・モンゴメリーしかいないと強く強く思います!

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がび

こんにちは、Ashさん。
あらまあ、この記事からもう10年もたってしまったんですね。

わたしもエリザベス・モンゴメリーのサマンサは大好きです。実は全巻DVDも持っています。ちょっと古臭くて、今見ると返って新鮮で興味深いですよね、ファッションとか家の小物とか車とか。ニコール・キッドマンは悪くはなかったけれど、やはり彼女のサマンサは影が薄くて一度見たけれどDVDを買う気はしませんでした。

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がび

最初の3シーズンは放映当時白黒だったようです。カラーになったのは4シーズン目から。その最初の3シーズンも全てあとから色付けされてカラーになりました。わたしが持っているDVDも全てカラーです。

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