1896年に建てられた家

買い物の帰り道、大きな看板に気づいて車を止めた。
Home Openと書かれた不動産屋の売家開放の日らしい。草はボウボウと生え、屋根はサビだらけ、煉瓦は色あせているが、通るたびに「昔は堂々たる邸宅だったんだろうな」と思っていた家である。
中 に入ってみると、こりゃひどい。安易に取り付けた増築部分は安っぽくて汚く、台所も広いだけで、キャビネット類は使いものにならないほど汚れ、壊れてい る。だが、正面のドアには緻密なステンドグラスがはめ込まれ、どっしりと厚い木の床が薄汚れたネズミ色のカーペットの下から覗いている。正面には6本の柱 がベランダの上に立ち、フェデレーションスタイルと呼ばれる1800年代の面影を確かに残していた。
800m2の敷地込みで、この1896年築の邸宅の価格は27万豪ドル(約1900万円)だから、日本のことを考えたらびっくりするような安さだ。

欲しい。

喉 から手が出るほど欲しかったが、理性を取り戻したアタマで考えたら、邸宅の復元に倍の費用がかかると気がついた。屋根、内装、庭から全てが使いものになら ないからだ。不動産屋のオニイサンが香水の匂いぷんぷんさせながら語ったところによると、年々古い家は少なくなり、この家は近辺では一番古い家で、しかも 50年以上まったく修復されていない、ということだ。まあ、だから安いのだろうが、趣味でアンチック家屋の修復をしているならともかく、シロウトではとて もどこから手をつけたらいいか迷うだろう、とも付け加え、わたしをじっと見た。
完全に復元されたその邸宅の素晴らしさを想像して、また喉で手がざわざわと指を動かしはじめたので、早々に退散。「風と共に去りぬ」の邸宅は、またもやわずかに残っていた理性と共にアタマから去っていった。

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