パース近郊の港町フリーマントルへ

わたしが週末に半日過ごす「小さな旅」というと、フリーマントルとスワンバレーぐらいだ。何しろパースという西オーストラリアの州都は、ギネスブックにも乗るくらいの世界で「どこの首都からも一番離れている都市」なのだ。一番近い首都はインドネシアのジャカルタである。

そんなわけで、今週はフリーマントルへ。ちなみに地元のひとたちはフリーマントルとは言わない。フリオ、である。なんでも縮めるのが大好きなオーストラリア人にとって、フリーマントルは長すぎるのだ。大体ブレックファスト(朝食)だって豪州スラングではブレッキーである。教師なんか昔はチョーキーと呼ばれていた。つまりチョークを使うヤツという意味だ。現在ではチョークなんか使わないし黒板は白板になったので、「死語」になってしまったけどね。

閑話休題。
そのフリーマントルだが、パースの中心地からだと約20キロほど離れている。そのぐらいなら半日過ごすのに最適なのだ。車を停めるのはいつもの駐車場。フリーマントル・マーケットから2分と離れていない場所で、今日はマーケットの前でジャグリングのペアが面白おかしいおしゃべりで観客を沸かせていた。

そのままテクテクと歩いて向かったのは、フリーマントルの船着き場だ。ここには有名なカイリスというシーフードマーケットがある。パース市内にも魚屋の店を持っていて、パースで「魚」と言ったらカイリスなのだ。ただし、魚屋の魚自体はほかの店より少々高めに設定してある。

ここのマーケットはセルフサービスだ。好きなものを選んで支払い、ブザーをもらって席につく。そうすると、注文ができあがった時点でブザーがなり、取りに行けるというわけだ。今回は、シーフードグリルのミックスに生ガキ。もちろん冷えた白ワインも1本。

この店は船着き場ということもあって、カモメたちが残飯を漁りにやって来る。そのために何人もの若いアルバイトスタッフが待ち構えており、食べ終えた客が立ち去るとささっと飛んできてすぐに皿を片づけてしまう。まるでカモメとの競争である。今日も頭の上の日傘でトトントトンと音がするので見上げたら、カモメが歩いていた。

下から足がちょこんと見えていてカワイイ…が、糞の被害も多くて店としてはスタッフを雇ってでも追い払ってしまいたい鳥たちだ。

ちょうどそのとき、隣の船着き場からレスキュー隊の船が出動した。結構急いでいたので、何か助けが必要なことがあったのかもしれない。周りがのどかにランチを楽しむひとたちや散歩するひとたちばかりなので、なんだか少し緊張する瞬間。

さてランチが終われば、ゆっくりと腹ごなしの散歩。港の近くには難破船博物館があり、その前は「セグウェイ・ツアー」の集合場所となっていた。セグウェイとは電動立ち乗り二輪車のことで、これを使ったツアーがフリーマントルの港周辺で開催されている。ちょっと乗ってみたくなるような仕様で、免許などはいらないらしい。

ついでに難破船博物館にも入ってみた。19世紀の難破船を展示しているだけだが、かなり大きなものもあり、船と一緒に見つかった乗組員の私物なども展示されていて、歴史的にはとても興味深い。入場料は無料。ただし、博物館を維持するための寄付が奨励されていて、わたしもコインをいくつかその箱に投げ入れた。

しばらく行くと、結婚式の写真撮影をしている。フリーマントルには観光客も多く、遠巻きに皆写真を撮っていて、わたしも一枚だけパチリ。遠目だけれどアジア人のカップルだということだけはわかった。

こちらは、わたしも一冊買ってみたくなった不思議な本屋、Elizabeth’s Bookshop。並んでいる本は全てすでに包装されていて、タイトルも表紙も何もわからない。包装も何の変哲もない茶色の包装紙だ。ただし、その上にキーワードだけが記されている。例えば、「イタリアのスリラー」「自由に生きる一匹狼」「殺人」「大学のキャンパス」「三角関係」「動機は?」。どうだろう、何だか読んでみたくならないだろうか。これはこの本屋独自の「Blind Date with a Book」という企画モノで、一冊の本とのブラインドデートという意味だ。プレゼントに買うひともいるし、自分のために買うひともいる。

「本を表紙で判断してはいないだろうか」というコンセプトの元に企画したら、大当たり。今では、オーストラリアだけではなく英語圏の各国に郵送していると言う。

さて、週末のフリーマントルは観光客だけではなく、趣味の女装をして歩いているオジサンたちもいて楽しい。風情からして普段はどこか普通の会社などで働いているのだろう、仕草などが少々ぎこちないし、声もつくってはいない。楽しそうに二人連れで歩いていて、ちょうどわたしが立ち止まって前述の本を眺めていたら、とても美しいイヤリングをしているのがちらりと見えた。海の色の青いビーズがキラキラと輝いている。
「まあ、きれいなイヤリング…」と言ったら、「ありがとう。わたしが自分で作ったのよ、ダーリン」と答えてウィンクまで投げてくれた。

歩き疲れて入ったカフェは小さな広場に面した店。
行き当たりばったりだったが、このExquiseは自家製のパンとケーキでかなり有名な店だった。ご主人は中国人女性。彼女が毎日焼いているクロワッサンやケーキ類は地元でもファンが多いと言う。
わたしたちが注文したのは珈琲とケーキ。珈琲が紙コップなのは少々残念だが、それでも美しいオーストラリアの花が印刷してあって、そこらへんの店の何の変哲もない紙コップよりはいいかもしれない。

チョコレートケーキは、確かに美味しい。ねっとりと舌にからみつくチョコレートとクリームは、甘みが抑えてあって本来のカカオの味わいが嬉しい。ただし、この二足のフォークはとんでもなく食べにくい。細すぎて小さすぎて、ケーキの一口が支えきれないのだ。ポロポロと皿の上に落としながら、いっそのこと手で食べようかと思ったくらいだ。些細なことかもしれないが、これは改良したほうがいいのではないか。ケーキがとても美味しいだけに、惜しい。

外のテーブルでそのケーキと格闘していたら、向かいの店で何やら子供たちが集まっている。皆妖精のような淡い色のドレスを身に着けて背中には羽根まで生やしている。その子供たちの真ん中には、魔女だか妖精だかちょっと見ただけではわからないオトナの女性(たぶんその店のオーナー)がいて、子供たちに向かって色々な妖精世界の話をしていた。

「フェアリーの店」というらしい。この界隈では有名で、週末ともなると子供たちが妖精になりたくて親と一緒に集まってくる。こんな夢のような店があったら、女の子たちは夢中になるだろうなあ。

その小さな広場からまた大通りへ出て、マーケットを通り、果物を少し買ってから駐車場へ。
角には1929年の古い車が何台も並んでいた。よく手入れされていて美しい。こういう車はナンバーも許可証も違うと言う。つまり、趣味の車というわけで平日ではなく週末だけの許可だ。それでも週末ともなると、いろいろな集まりもあり自慢の車を出して乗って行くのだ。中を覗いてみたら、全て美しく手入れされた木造である。現代の車のように(わたしなんかちっともわからない)ボタンが沢山並んでいる「コックピット」と違い、とてもシンプルだ。わたしだってちょっと教えてもらったら簡単に運転できそうなほど、ハンドルの向こう側に何もついていない。

こういうアンチックな車はイベントのときなどにも貸し出されるようで、確かわたしの家の2軒先の家も3台ほど持っていて、週末ともなると白いリボンで車を飾り、運転手のお隣さんも昔の運転手のような制服で出かけて行く。たぶん結婚式用なのだろう。楽しそうだ。いつかこんな車に乗ってみたいな、と思いながら帰途についた。

週末の半日旅行はこんな具合だ。のどかなものだが、これだけでも平日のストレスがすうっと消えていくのがわかる。そうしてまた次の週の忙しさに備えるのである。

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