がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

タスマニアへ:ローンセストンのクイーンビクトリア博物館と美術館

4月20日(水)
ローンセストンの朝、古いホテルの朝食ルームでの朝ゴハン。オーナーの犬が入り口で迎えてくれるが、決して中には入って来ないし客にも寄って行かない。よくしつけられている。

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8時ごろに降りていったが、まだ2組の客が朝食を摂っている。朝食はイギリス式、セルフサービスである。

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珈琲は夜明けにすでに作ってしまったかのように、ぬるくて不味い。こんな不味い珈琲を飲んだのは久しぶりだった。「各種フルーツ」と朝食メニューには書いてあったのに、フルーツはコンポートにした巨大なプルーン丸ごとがいくつか。たぶんこのホテルの手作りだろうなあと思わせる、素朴だけどあまり美味しくない…。残念。

だが、ごちゃごちゃと色々なものが置いてあって、見るだけで面白い。
例えば、このティーポット。暖炉だ。置き時計がつまみになっているし、ご丁寧に猫まで真ん前に陣取っている。

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こちらはミシン型ティーポット。

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トースター型のティーポット。こんなので誰がお茶を飲むんだろう…。

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珈琲はさすがに残してしまったが、あらゆる種類のガラクタ(失礼!)を眺めるのは楽しかった。

ホテルを後にしてから、クイーンビクトリア博物館へ。見どころはどちらかと言うと、わたしの趣味の範囲外。つまり恐竜の骨とか、オーストラリアの野生動物の剥製とか、馬車から蒸気機関車への歴史とか。

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ちょっとおもしろかったのは「Perception Tunnel」(=知覚トンネル)。
人間の知覚というものがどれだけ外界の認識に左右されるかということがわかるトンネル。つまり、橋自体は全く動いていないのに、周囲の風景が上下に動くだけであたかも橋自体が揺れているように感じてしまうのだ。

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子供たちが喜びそうなゲームが沢山あり、こちらタスマニア州もちょうど秋休みだったので館内は小学生ぐらいの子どもたちがたくさん。歩いているだけで、走ってくる子供にぶつかりそうになり、早々に退散。

車で4−5分のところにあるのはクイーンビクトリア美術館。こちらには19世紀から現代までの美術品が展示されている。博物館に比べるとこちらの美術館のほうにはあまりひとが入っていないようで、しーんとして落ち着いた雰囲気だ。

ほとんどの展示品が19世紀の写実的な肖像画で、ホバートやローンセストンに入植したかなり地位の高いひとたちとその家族の肖像だ。
その中で、ちょっと変わり種の肖像画を見つけた。

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肖像画が写実的で(たぶん実物よりはるかに)美しく描かれているのに、このふたつの肖像はどちらかというと戯画だ。じっと見つめていたら、美術館のスタッフが、たぶんガランとした美術館の見回りをするのに退屈していたのだろう、わたしに話しかけてきた。

「おもしろいでしょう?これはウィリアム・ブーロウ・グールドという画家の描いたもので、普通の肖像画とは違い面白おかしくしたかったのだと思います。グールドが借りていた家の家主夫妻を描いたもので、家賃を滞納していたのでその家賃代わりに描いたのだそうです。家主が大笑いして、家賃を何ヶ月分かタダにしてやったとか。」

グールドは日本では全く知られていない画家だが、この他にも静物画を沢山残している。躍動感のある精密な魚の絵や美しい季節の花々。英国リバプール生まれだが、24歳のときに窃盗の罪を犯してタスマニアに流刑となった。7年間の禁錮刑である。公文書には「武器をつきつけてコートを奪う」とある。以前にも絵の具を盗んで逮捕されたという但し書きがあった。それだけで7年はあまりにも長い流刑だろうと思うかもしれないが、ポート・アーサーの例を見ても、どうやら19世紀には至極当然の刑だったようだ。

自由の身となったあとはローンセストンから首都ホバートに移り、彼の絵が有名になるにつれてその金をほとんど酒に費やし、貧乏と窃盗の繰り返しがやってくる。1853年にベッドで自然死(というからには心臓発作か脳梗塞か)したという。52歳だった。
波乱万丈と言ってもいい無頼漢、そして芸術家としての一生だった。

入場料を取らない美術館だが、入り口でもグールドの絵の前でも説明を丁寧にしてもらったのでいくばくかの寄付をして外に出た。

さて、入り口の横にはこういう「芸術作品」が置いてある。まるで「さあ登ってみませんか」とでも言っているようだ。

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もちろん本当に登っちゃうひとが沢山いたとみえて、横にはデカい立て札が。「危険:彫刻品には登らないでください」
つまり滑って落ちるひともいたということで危ないのである。やめようね。

 

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