がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

美容院で髪とアートメイクを語る

バンコクに帰るたびに、必ず行く美容院がある。
もう何年も通っているので、「ここをこうして、ああして」などと頼まなくても、ちょんちょんと切っていつもの色に染めてくれる。それでも、かなり長くなったときなどに「ばっさりやっちゃってください」と頼むと、「たまには冒険しませんかあ」と聞かれるときもある。しかし、とてもじゃないが勇気が出ない。
今回も、そんな風にしてちょんちょんと切ってもらっているときに、突然「クセ毛」の話になった。

「ボクの髪はチリチリのクセ毛なんで」と、後ろから鏡を見ながら美容師のオニイサンが言う。「昔、高校の野球部だったときに、坊主頭の髪が1cmくらい伸びただけでウネリが出てきちゃいましてねえ、情けなかったですよ。何しろ、帽子をとるともうそこにビッタリ跡がついちゃって、まるでカツラかぶっているみたいで」
隣の客まで、ぶぶぶと吹きだした。

ところが、そのチリチリの彼さえびっくりしたのは、初めて黒人の髪を切ったときだと言う。「普通の櫛もハサミも通らない」そうなのだ。彼らの髪は大変細くて柔らかく、根元から細かいウネリができているので、日本人美容師が使うような目の細かい櫛では歯が立たない。バリカンを浮かせながら使ってどうにか形を整えたそうだが、「縮毛矯正してくれ、って言われなかったんでホッとしました」ともらして、またわたしと周りの客を笑わせた。

人種によって髪の質は違うもので、スイスにいたころはわたしも困ったことがある。あの当時まだアジア系住人が少なかったせいか、美容師たちはそうした髪質の扱い方を知らなかったのだ。
「まああああ、なんて硬くて太いんでしょっ。まるで、ヒモみたいっ」と声を上げられるのもザラだった。
ところが、その硬くてまっすぐな髪は、パーマがかかりにくそうに見えて実は大変かかりやすい。そのため、一度わたしが試したパーマは、「まるで数百ボルトの電気を通したかのごとく」わたしの髪を痛め、半年ほどバクダン頭で過ごすはめになった。
それ以来、チェンマイにいた数年を除いてわたしはパーマをかけたことがない。

「あ、そうそう。髪を切るだけじゃなくて、今度からウチでもアートメイクができるようになりますよ」と、わたしの顔についた細かい毛をブラシではたきながら、美容師のオニイサンがまた話しかける。
「薄い眉毛をなぞったり、アイラインや口紅もできるんですよ。半年は、絶対消えないし。冒険してみませんか?」
朝起きぬけのぼうっとした顔に燦然と輝く、凛々しい眉にくっきりアイライン、そしてマッカッカの唇…絶対やだ。
だから、美容院では「冒険」しないことにしてるんだってば。

 

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