筒井康隆「経理課長の放送」

5955393筒井康隆の短篇集「農協月へ行く」を、突然どうしてももう一度読みたくなった。
アマゾンで探したら、絶版になっている。絶版になってはいても全集には収録されているらしい。念には念を入れて探し続けたら、文庫版では「夜を走る トラブル短篇集」という新しい短篇集にも収録されていた。これはKindle版も出ている。つまり、わたしの大好きな「経理課長の放送」は、他のドタバタ短編と一緒に新しいグループ入りを果たしたのである。

本の場合は、音楽アルバムのように予めひとつの構想をもとに曲をバランスよくまとめるのではないらしく、筒井康隆の場合はかなりこうした「再編成」がある。

そんなわけで、バンコクの本棚をもう一度ひっくり返して探したら、あった。角川文庫の懐かしい表紙だ。古本で手に入る版でさえこの表紙ではないから、ずいぶん古いものだといえる。

以前日本で友達に勧められて買い、そのまま電車に乗って読んで「ぶは」と吹き出しそうになりあわてて閉じた覚えがある。公衆の面前でこんなに苦しい思いをして笑いを抑えたのはあとにもさきにもこれが初めてで最後だった。そして、筒井康隆という斬新な言葉の使い方をする小説家の本を読んだのも、これが初めてだった。

この文庫の最初に出てくる短編「経理課長の放送」もそうだが、かなり刺激的な内容のハチャメチャのドタバタである。特に「経理課長の放送」はその話し言葉の放送ドキュメントがあまりにも面白く、何度読んでも笑いがとまらない。この短篇集に収録された他の短編のように刺激が痛くなるところまで行かずに、ちょうどいい部分でコチョコチョといつまでもくすぐっているからだろう。

これは「読む」から面白い。朗読してもつまらない。YouTubeに朗読を試みた動画があるが、経理課長のおかしさとそのドタバタの悲哀が全く色あせてしまっている。まさしく読む言葉の魔術のせいにほかならない。筒井康隆はクセがあって読みにくいときもあるが、ドタバタ劇を書いていても言葉に対する真摯な思いは伝わってくる。

だから、もう一度黄色くなった文庫を開く。また大笑いをするために。

 

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