「生徒とドライブ」狂騒曲

12年生はまだ12年生なのだけれど、すでに卒業式も大学入学試験も済んでしまい、時々用事で学校に来るときも普段着だ。最後にもう一度制服を着るのは、来週行われる中高等部の学年末修了式のみ。わたしの日本語教室の生徒がひとり、今年総代に選ばれているので、表彰式は晴れの舞台だ。

今年の卒業生たちは、ちょうど西オーストラリアで一番人数が少なかった学年に当たり、それに合わせてか日本教室は何と4人のみ。それでも和気あいあいと最後まで笑いの絶えないクラスだった。

10月にあった3校合同期末試験の会話部門は土曜日の朝。そして、さらに20校ほどの合同で行われた大学入試直前会話練習の会がちょうどその日の午後。どちらも何とか出席しようとすると、ランチなしで直行してやっと間に合うぐらいだ。オマケに、送り迎えをしてくれるはずだった父兄がどうしても急用で来られないという。電車とバスを乗り継いで行ったら2時間近くかかってしまう。

「よし、センセイの車で一緒に行こう」「わーい」

生徒たちはもう遠足気分で大喜びだが、このウルサイ少女たちをぎっちり詰め込んで1時間近くも運転することを考えたら、センセイの気分はそれほどウキウキするわけもない。

一応ウチの学校の生徒たちは朝早い時間帯に個々の会話試験をさせたので、あとはおしゃべりをして過ごし、わたしが他2校の会話試験を終えた時点で、行く途中の店で予め注文しておいたランチのハンバーガーを受け取り、車の中で食べながら会話練習の会へ、という段取りをたてた。

そしてその日の朝。会話試験の途中で生徒のひとりからメールが入り、すわ何事かとチェックしたら、「センセイ、ハンバーガーはどれがいいですか?」
ばかもーん。

そんなわけで、やっと午前中の試験が終わり、駐車場で生徒4人を詰め込み出発。お、おもい…。そりゃ、いつもはひとりで運転しているのだから無理もない。

途中でハンバーガーを受け取ったはいいが、到底運転しながら食べられるようなサイズではない。何しろオーストラリアの「マクドナルドじゃないハンバーガー」の大きさはアゴがはずれるほど口を開けてもかじれないくらいの高さだ。
わたしは断念したが、生徒たちはもちろん食べ始めた。小さい車の中は、もうハンバーガーとフライドポテトの匂いが充満。仕方なく高速道路だというのに窓は全開。すかさず隣の生徒が「自分たちが好きな」ラジオ局に勝手にセットし、音楽のボリュームを上げる。ラップに合わせて「いえーい」だの「うおーい」だの叫び、狭い車内で踊り始める。

うるさーい。
センセイの怒鳴り声は、100キロの速度で走る全開の窓から悲しく外に放り出される。

しばらくしてはっと気づき「センセイの車のシートにケチャップたらしたヤツは、ひとたらしごとに1点ずつ朝の会話試験から減点だからな」と言い渡す。
「えー」「えーもわーもないっ。たらすな。静かにしろ。踊るなっ」「きゃーきゃー、センセイこわーい」 全然怖がっていない。

わたしの隣の助手席生徒でさえ「人間カーナビ」としてiPhoneのGoogleを見ながら道を間違えずに「今まで一度も行ったことのない学校」に到着する使命を帯びているのに、ハンバーガーを食べながら、歌い踊る。
「おい、本当にまだなの?」「あ、センセイそこで右へ」「きゃー、もっと早く言えっ」

最後のほうで道を間違えそうになったら「センセイ、そこじゃない、あっちっ」「そこを右に」「で、そっちからあっちへ」と4人全員が人間カーナビと変身して同時に指示を出し始め、センセイは「指示はひとりっ。あとは黙るっ」と怒鳴る。

やっと着いたときには、センセイはクタクタヨレヨレである。生徒たちは…「センセイ、楽しかったー。ありがとうございます」と元気一杯。

教師待合室に入ったら、入り口の鏡に全開窓のせいで髪の毛モシャモシャ、目の下にクマつくったわたしが映っていた。ああ、10代の子たちにはかなわない。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA