ナントカを入れて混ぜるだけ

日常の細々とした家事は全てわたしの担当で、好きとは言えない掃除機かけ、から拭き、洗濯、風呂とトイレの掃除、ゴミ出し、庭の水撒きなどを毎日こなしている。

それが終わると、夕方の買い物だ。これは楽しい。
実家の近所には商店街があり、スーパーや100円ショップの間で普通の八百屋や肉屋やお惣菜屋が呼び声を張り上げていて、冷やかしながら「お、今日はキュウリが安い」などと呟いて店先で小銭を数えている。野菜などはこういう小売店で買うことが多いが、その他の日用雑貨やソースなどはスーパーで買い求める。最近改装したスーパーは毎週のように安売りをしていて、家を出る前に買うものを母と入念にチェックまでしている。

いや、何のことはない、主婦の方々には毎日何年もやっていることで目新しくもないだろう。だが、小売店というものがほとんど消滅したオーストラリアに住んでいると、こういう夕方の買い物は懐かしくてウキウキしてしまうのだ。

スーパーに一歩入れば、そういう「オーストラリアにないもの」があふれている売り場はわたしにとってまるで遊園地だ。ありとあらゆる調味料や乾物類、酒、焼酎のほかに、考えられる限りの「いつものお惣菜」がプラスチックのパックに入れられて整然と並び、目がクラクラするほどだ。

さて、今日の晩ゴハンはこのセールの豚肉とキャベツを使って回鍋肉など…と思っていると、目の前には「肉とキャベツを炒めて混ぜるだけ」というインスタントソースがある。キュウリと新玉ねぎとワカメで酢の物を…と考えると、何百もあるインスタントソースの隣にちょこんと「振りかけるだけで酢の物」というパックがある。

ちょっと待てよ、と立ち止まる。

わたしも物珍しさから、そういうインスタントソースは各国で一度は試してみた。どれも同じような味で、まるで個性がない。そして塩辛い。何が何だかわからない添加物も沢山入っている。結局、自分で作っても同じぐらいの時間しかかからないので、ほとんど買ったことがない。

わたしの母には母の味つけがある。その最たるものが「お稲荷さん」だ。わたしも妹も市販のあのイヤに甘くてしょっぱい味のお稲荷さんがあまり好きではない。母のはどちらかというと薄味で甘みも少ないが、それだけにいくらでも食べられる。小さいころは、何かのお祝いごとというと、すぐにわたしたちは「お稲荷さん!」と叫んだものだ。

スーパーの中を見回すと、誰もがお惣菜のコーナーでとんかつを選び、海藻サラダや煮物を手にとっている。味つけは市販の「ナントカの素」か前述のインスタントソース、ふりかけるだけで手軽に焼けるスパイスミックスなどだ。
同じような店で同じ味の同じ惣菜を買う。そこには画一化された味があり、わたしたちはそれを「おふくろの味」だと思い込もうとする。

手軽だから、という理由で自分の味を捨てるのは簡単だけれど、去年セールで買ってみた回鍋肉のインスタントソースはなにかが違っていた。でも何がどう違うのかわからない。それで、次の日に同じキャベツを使って自分の回鍋肉を作ってみた。醤油、味噌、豆板醤、ニンニク、ごま油。
ひとくち食べてみて、ほっとした。もしかしたら、これはわたしの味覚のせいかもしれない。もしかしたら、ほかのひとにはインスタントソースのほうが美味しいのかもしれない。でも、わたしにはこれがいい。毎回、いいかげんな目分量なのでちょっとずつ味がずれているが、それでもわたしの味つけだ。

そんなことを考えながらの帰宅途中、今回の滞在で母に必ず「お稲荷さん」の味つけを教えてもらおうと心に誓った。

 

 

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