がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

元教え子に会う喜び

スーパーのレジで並んでいたとき、「がびセンセイ?」と後ろから声をかけられた。
振り向くと5年前に卒業した韓国人の日本語クラス生徒、ヘリだった。わたしが覚えているのは、ぽっちゃりとしていて動作も話し方もゆっくりとしたおとなしい生徒だが、目の前にいるのはすでに成人して顔も体もほっそりとした綺麗な女性だ。

「まあ、英語が上手になって」
「センセイ、もうこちらに来てから7年になるんですよ。もちろんもう不自由していません」
そう言って笑う彼女は、英語だけではなく声にも態度にも自信があふれている。日本語クラスでは1番よくできたが、会話試験だけは苦手だった。それでもほかの生徒に比べると抜きん出ていたが、英語でも日本語でも口数が少なく、友達もあまりいなかった。終了式にも出席していなかったので、韓国に帰ったのかパースに残っているのかさえわからなかった。
「今は専攻をふたつにしたのでまだ学生です。法律と経済を勉強しています。アルバイトもしているんですよ、法律事務所で」

時々こうやって何年もたつのに元教え子たちに会う。まんまるだった頬がほそくなり、話し方が大人っぽくなり、目をふせて話していた少女がしっかりとわたしの目を見て生き生きと話す。そして、わたしのことも名前もはっきりと覚えている。たぶんこれからも覚えていることだろう。そう思いたい。

「センセイ、また会えますよね。だって、わたしいつもここで買い物をするんですから」と微笑んだヘリに手を振って、スーパーを後にする。そして、まだ幼さの残る時期に教えた彼女の記憶をたどりながら、「これだから、教師やめられないんだよ」とひとり呟く。

 

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