イタリア総菜屋の看板娘「たち」

土曜日になって、珈琲を切らしていたことに気づきました。わたしのお気に入 りのイタリア食品店は土曜日はお休みなのです。

真空パックの珈琲ならスーパーで手に入ると思って車を走らせていたら、ちょ うど並びの小さな総菜屋のことを思い出しました。総菜屋というより珈琲ショッ プのような洒落た作りで、店の中のウィンドウにはハムやチーズが並び、イタリア 風に各種オリーブ、ナスやズッキーニのマリネなども買えます。軽いサンドイッ チと珈琲は、店の中のテーブル席でとれるようにもなっています。 従業員は店のオーナーらしき大柄で声の大きな男性と、女性が三人ほど。皆揃 いの黒いTシャツを身につけています。その中のこちらを向いた女性に、量り 売りの珈琲豆を注文しました。長い黒髪をきっちりと後ろでポニーテイルにし て、とても大きな目をしたイタリア系の若い美女です。

注文した珈琲豆を挽いてもらっている間、何とはなしにウィンドウのハムを眺 めていたら横から声をかけられました。珈琲豆をひいてもらっている彼女です。 「何かお探しですか?」 とまどって黙っていたら、今度は「誰かもうご注文を受けておりますか?」と、 さらに聞かれました。なんだか妙です。 「えーと、アナタに確か珈琲豆を注文したはずなんだけれど」と言うと、彼女 は大きな白い歯を見せて笑い出しました。「わたしたち、双子なんですよ」 そう言う彼女の脇から、珈琲の袋をかかえた同じ顔がもうひとつ現れました。 似ている双子は沢山いますが、これほどそっくりな顔はあまり見かけません。 ましてや、同じTシャツのユニフォームにポニーテールです。 「よく間違えられるんですよ。わたしたちどちらも長い髪が好きなもんで…ヘ アスタイルを変えたら一番わかりやすいんですけれど」 そう言って笑う双子No.1から挽きたてのよい香りを放つ珈琲を渡され、微 笑む双子No.2にドアを開けてもらって、わたしはその店を後にしました。

初出:メルマガ「AVANCE!」No. 140

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