パースのたこ焼きは温かいうちに

明るい商店と洒落たバーやブティックの並ぶ道から近いので、このごろでは車を使わずに買い物を済ますことが多くなりました。スーパーの隣にはアイルランド系のパブもあり、夕方まだ日の落ちないうちに暗い隅っこでサイダーを一杯ひっかけるなどという、女性にあるまじきオコナイも密かな楽しみとなりつつあります。

ある日、このパブからその並びの肉屋に向かったところ、奥に日本語がちらりと見えました。肉屋の裏にはイタリア系の乾物屋と韓国人の八百屋があるのですが、そのさらに奥の小さな日本食堂には今まで気がつかなかったのです。テーブルと椅子がいくつか、7−8人はいればいっぱいになってしまうような小さな店です。どちらかというと注文して包んでもらう客のほうが多いようで、中で食事をするひとたちはあまりいません。
照り焼きチキンや海苔巻きなどの定番和食が書かれた黒板を見て、親子丼とついでにたこ焼きも注文すると、「5分から10分くらいかかります」とのこと。
「それじゃ、ちょっとそこの乾物屋で買い物してきますね」と声をかけて、隣の店に入りました。

ぶらぶらと品物を見て時間をつぶしていましたが、ふと顔を上げるとガラスをへだてた隣の店から、さきほど注文をとってくれた若い日本人女性が、手元のプラスティック袋を指差しては懸命に手をふっています。戻ってきたわたしを見た彼女は、「たこ焼きはあったかいほうが、ほんとに美味しいですから」とにっこりと微笑んで包みを渡してくれました。
出来たてのたこ焼きを手にとってみたら、海苔とソースの香りがそっと鼻をくすぐって、なんだか懐かしいような哀しいような不思議な気持ちになります。
「早く帰って食べますね」と彼女にお礼を言うと、わたしはほとんど駆け出さんばかりに家路を急ぎました。

(初出:メルマガ「AVANCE!」 No. 133, 16/08/04)

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