がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

「ハリソン・フォード」は2年で倍になる

バンコクの知人たちは、居をパースに移してから確実に減った。いきなり音信が途絶えるというのではなく、元々転勤族とその家族が多いため、何年もたてば必ず母国に戻ってしまうからだ。それでも何人かバンコクに住みついてしまったひとたちもいて、たまに食事と酒を愉しんでの近況報告となる。

ところが今回、偶然にも2年前帰国したドイツ人の友人が休暇で戻ってきていると言う。それを教えてくれたのは、レストランを開いているスイス人だったが、「うちに来るより、なんだかパブに入り浸っているようだよ」と悔しそうだ。ここが高すぎるんだってば、と言ってやりたかったが、2週間の滞在で貴重なシリアイの機嫌をそこねることもない。

そこを出た帰り道にあるドイツパブなので、ものは試しと寄ってみたら本当にいた。
そして、ビックリした。

スーツ姿の「ハリソン・フォード」だった男が、いきなり屋台の安物シャツを着た「そこらへんのビールっ腹のオジサン」になっているではないか。向こうがわたしの姿をみとめて、信じられないとでも言うように満面の笑みを浮かべなかったら、もう一度ドアを開けて帰っちゃいたいくらいだった。テカテカと光る顔はまん丸だし、顎はたるんだ首にめりこんでいる。どうやらドイツに帰国して2年間、しばらく忘れていた食生活に戻って詰め込みすぎたようだ。と思ったら、デカイ腹の陰から金髪でがっしりした体格の女性が顔を出した。(注:彼女は座っていて、彼は立っていたのでこういう状況になった。)「妻のぺトラだ。新婚旅行なんだよ。」

バンコクに住んでいたとき、彼の横に寄り添っていたのは確か「テレーズ」だった。
離婚して、また結婚して、その間に休みなく食べ続けて体型を完全に変えてしまった、ということか。幸せそうなのはわかるが、以前は実にイイ男だっただけに衝撃は大きいのだ。

「もう、誰も振り返らないから安心ねえ、ぺトラ。」とひそかに心の中で毒づく。

 

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