いつもの麻婆豆腐で

目前に迫った引越し用にダンボール箱を山のように積み上げていたとき電話が鳴りました。
「ねえ、麻婆豆腐を食べに行かない?」 中国系の教師友達でした。
このお誘いの意味するところは、中華街の片隅にあるいつもの小さな中華料理屋です。わたしたちが注文するのもこれまたいつも「麻婆豆腐」と「ホタテ貝と絹サヤのXO醤炒め」。色々なものを試しましたが、この二品が一番美味しく、ここに来るときの定番になってしまったのです。
麻婆豆腐は日本のものよりピリリと辛く、挽肉ではなくて豚肉のザク切りが沢山はいっていますし、ホタテ貝も新鮮でいつもプリプリと歯ごたえが楽しめるので、もちろんわたしが断るわけがありません。

お腹をすかせてレストランにはいるとすでに満席状態。大テーブルのはじっこに座らされたわたしたちの目の前に、3人の日本人留学生らしき若者たちが座りました。もちろん、相席です。
固焼きソバらしきものを全員が食べていましたが、わたしたちの前に来た麻婆豆腐を見て、「おい、麻婆豆腐だよ。美味しそうだなあ。」「食べてみようか。」「でも違ったら、どうする?」
こそこそと日本語でこちらを盗み見ながら話していますが、どうやら英語で会話をしているわたしが日本人だとは気づいていないようです。
「とても美味しいから試してみたら? 何しろ、わたしたちがここに来るたびに注文する定番メニュウなんだから。」とそっと声をかけたら、麺をすすっていた手を止めた3人はひゅうと息を止めてビックリし、全員揃って真っ赤になりました。そして一人が「あ、ありがとうございます」と言うと、後の二人も揃ってぴょこんとお辞儀をします。その礼儀正しさがあんまり可愛らしくて、なんだか嬉しくなってしまいました。

(初出:メルマガ「AVANCE!」 No. 128, 31/05/2004)

 

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