ボロネーズ風ミートソースのフェトチーネ

子供のとき、東京できちんとしたスパゲッティーを食べさせてくれる店は数えるほどしかなかったように思う。
大方の庶民にとって「スパゲッティー」というのは、洋食のハンバーグの付け合わせとしてのケチャップ和えっだった。

そ の後台頭してきた「スパゲッティーミートソース」は、挽肉とタマネギの入ったトマトソースがかかっていた。隣にはパルメザンチーズという「チーズの匂いの する粉」の容器が置かれ、それをさらさらとあたかもフリカケのようにかけた。そして、フォークでスパゲッティーを持ち上げてからスプーンに押しあて、くる くると巻いて口に押し込む。蕎麦のようにすすってはいけない、というルールが浸透し始めたのもこのころだ。

最近では、スパゲッティーと呼ばずに「パスタ」と書く珍妙な記事やTV番組が増えた。しかしねえ…パスタはスパゲッティーを含むイタリア風麺類の総称だ。
つ まり、スパゲッティーもマカロニもタリアテッレもフェトチーネもラビオリもラザーニャもパスタなのだ。それをあたかもトレンディーな新語ででもあるかのよ うに、スパゲッティーを茹でながら「このパスタは」と話しているのには心底驚いた。と言うより、誰が使い始めたのか、そうした間違った語彙が「片仮名で書 けばなんでもトレンディー」と信じるマスコミによって浸透しているのにハラがたった。

しかし。かくいうわたしも、ヨーロッパに行くまで、スパゲッティーの食べ方も茹で方もきちんと知っていたわけではない。幸運だったのは、若いころ、知り合いのイタリア系スイス人の女性に基本を教えてもらったことだ。

そ んなわけで、頼まれない限り、わたしのうちではスパゲッティーやフェトチーネにはフォークしか添えない。スプーンはスープを飲むためのものであって(サー バーとしてフォークとセットで大皿に添えられるものは別として)スパゲッティーをくるくると巻くための道具ではないからだ。こんなことをするのは、満足に フォークも使えない子供と、日本人とオーストラリア人とアメリカ人くらいだ。(あ、書いちゃった)

それから、あのアメリカ人の発明した粉のパルメザンチーズも決して使わない。あんなものは、製法のまるで違う「クラフトスライスチーズ」と同じぐらいキライなので、オーストラリアでもあの紙筒を置いてあるレストランでパスタは注文しない。

前置きが非常に長くなったが、要するに今日の晩ゴハンはボロネーズソースのフェトチーネなのだった。

イ タリアではミートソースのことをラグー(Ragù)と呼ぶ。だから、あのトマトソースと牛挽肉が入ったものは「ボロネーズ風ミートソース」(Ragù alla Bolognese)だ。そして、実をいうとハーブは使わない。入れるのはベーコンと牛挽肉とソフリット(soffritto)と呼ばれる三位一体の野菜 ミックスだけだ。

まず、野菜。セロリとタマネギとニンジンのみ。これを細かく刻む。バンコクではパンチェッタが手に入らないので、ベーコ ンで代用。これも刻む。フライパンにオリーブオイルをたっぷり熱し、ベーコンを放り込み香りと脂が出るまでささっと混ぜ合わせる。それから野菜を放り込 み、色が変わるまで炒める。牛挽肉を入れ、ハンバーグじゃないので一生懸命ほぐす、ほぐす。

ぱらぱらになったら、わたしは大鍋に移す。少量だったら、まあ、フライパンでもできちゃうけれど、わたしの場合は8人呼んでも余るくらい沢山作るからだ。つまり挽肉だけでも800gある。

そ こに赤ワインをたっぷり入れてアルコールを飛ばす。次はざくざくと荒く切った缶のホールトマトとトマトピュレー。これで終わり。あとは様子を見ながらコト コトと2時間。ざっくり混ぜ合わせるときに少しずつ牛乳を入れながら、だ。最後には250mlの牛乳びんがカラになるくらい。この牛乳を入れるのがイタリ ア本場のコクだ。

塩コショウで味を整えたら、あとはフェトチーネを茹でるだけ。アルデンテだ、もちろん。湯で過ぎたら妥協せず、潔く捨ててもう一回。「教会のミサの鐘が鳴ろうと、子供が鳴きわめこうとアルデンテっ」これは、そのイタリア人女性が言った言葉だ。
ソース作りには時間はかかるが、手間はかかっていない。そして残ったソースはもちろん小分けにして冷凍しておけばいつでも解凍できる。

食べるときには、パルミジャーノ・レッジャーノのかけらを削ってもいい。わたしは、このボロネーズに限ってはがりがりとたっぷり削ることにしている。だって、美味しいんだもん。

話があとさきになってしまったが、このフェトチーネのボロネーズソースの前には、前菜としてスモークサーモン、薄切りキュウリ、アルファルファでサラダを作った。ドレッシングは、ディルと白ワイン酢とバージンオリーブオイルでささっと。

仕事で忙しかろうが、夏休みでノンビリと羽をのばしていようが、パースだろうがバンコクだろうが、結局いつものがびんち晩ゴハンはシンプルきわまりない。

 

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