手間隙かけてジョーク達成

近年各国で大ヒットをとった「アメリ」というフランス映画があるが、ここに出てくる世界を旅する小人に大笑いをしたひとも多いと思う。

主人公の父親は最愛の妻を亡くした後、「ひきこもり」生活を送っている。彼の唯一のよりどころは、祭壇と化してしまった庭の片隅にあるおもちゃの小人だ。
全く外に出ようともしない父をなんとかしたいと思ったアメリは、その小人を盗み、友達である国際線ステュワーデスに託す。かくして、世界中を旅する小人からは、各都市から有名な場所を背にした写真が送られてくるのだ。もちろん、最後には小人はちゃんと元の庭に戻っている。小人さえ旅をするのだ。
父親は一大決心をして、大きなスーツケースを持って旅に出ていく。アメリのチャーミングな策略は、ニューヨークの摩天楼やオランダの風車を背に写真におさまる、赤い帽子のおもちゃの小人とともに、楽しい余韻を残したものだ。

ところが最近、友達と一緒におしゃべりをしていたときに、ひょいとその話題が出た。「あのジョークは最高だったよねえ」と言ったら、「いや、あれはオリジナルじゃないんだよ。イギリスでは、かなり有名なんだ。」
あのプラスティック製の小人は、ヨーロッパではどこの庭用具売り場でも見かけるものだ。片隅にちょこっと置いて、童話の雰囲気を漂わせる小道具として使われることが多い。
「だから、ひとのウチの小人を盗んで、ちゃんと書置きを残し、いろんな場所から写真を送り続けるってのは、かなり大掛かりだけれど、誰でも知っているよ。」

彼はヘリコプターパイロットだが、何年か前、知らず知らずのうちに「片棒」をかつがされていたことがあったと言う。
ヘリコプターは、救助活動をするときには、ウィンチマンと呼ばれる「救助綱」の操作をするひとを2人乗せる。そのひとたちが、非番のときにあるホテルの玄関においてある小さなカンガルーの石像を盗んだのだ。
もちろん、ホテルには「いつもこんなところに立って、楽しそうな観光客を見ているだけでは、がまんができなくなりました。自分でも世界を見聞してきたいと思います。勝手な旅立ちをお許しください。」なんぞと書置きを残したらしい。
ウィンチマンたちが非番の二週間、カンガルーは「キングスパーク」に行き、動物園でコアラと遊び、パブで夜遊びをし、あげくのはてストリップクラブにまで出没したそうだ。
写真は律儀にも毎日、ホテルに送られた。

そして仕事に戻るときになってはじめて、友人のパイロットはなんだかイヤに大きな荷物が後ろに隠れているのに気づいた。幌をめくってみたら、なんとカンガルーの石像だ。
見つかっちゃったウィンチマンたちは白状したが、まあこのままパースにおいておくわけにもいかず、ヘリコプターは「招かれざる無賃乗客」を乗せて仕事に戻ったそうだ。
カンガルーはそのままこっそりとホテルに戻り、知らん顔をして玄関に立っていたが、ホテル側がこんなおもしろい話を逃すわけがない。
ロビーには、その後「パース旅行に行ったカンガルー」の写真が、書置きと共に陳列されていたと言う。

しかし、石像なんてかなり重いだろうに、こんな大掛かりなジョークを本当に実行するひとがいるから、世の中面白い。

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