がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

沈黙のただよう高級ディナー

バンコク最後の晩、行きつけのイタリアンレストランへ。
ホテルの高級イタリアンのように、一瞬息をのむほど高くはない。しかし、灯はおとしてあるし、雰囲気も落ち着いていて趣味がいい。スタッフのサービスも行き届いている。全く広告を出さないレストランだが、予約なしではまず入れない。そして、もちろんサンダル履きでも入れない。

今晩のわたしのメイン・ディッシュは、生ハムでくるんでグリルしたフォンティナ・チーズ、マッシュルーム、仔牛肉に赤ワインソースをかけたもの。
面白いことに、このレストランは三回転する。六時ごろまっさきに来るのは、日本人とその家族だ。そして、七時半から八時にかけて、ゲルマン系ヨーロッパ人たち。最後に九時すぎてから現れるのは、決まってイタリア人を含むラテン系のひとびとだ。食事のオーダーは十時までだから、ぎりぎりに登場して、キッチンが閉まってもまだゆっくり珈琲や食後酒を楽しむ。
わたしが行くのはほとんど「ゲルマン民族」の時間帯で、ようやく店が立て込んできたときだ。

まあこのレストランだけではないが、今晩も見回したら日本人男性とそのエスコートらしきタイ女性がいる。男性は小脇にセカンドバッグをかかえたカジュアルな服装の五十代、そして女性は少々化粧の濃い二十代前半。これに加えて、片言のタイ語と英語で二言三言話したあと沈黙がただよっているのを見れば、初心者ではなくても彼らの関係が理解できるというものだ。

西洋料理に慣れていないタイ人の常で、彼女もちょんちょんと皿のものを少しつついただけで、かなり残している。男性は黙々と平らげ、ワインをぐいぐいと飲み、次第にマッカッカになりつつある。
いつも感心してしまうのだが、こういう食事って美味しいんだろうか。
わたしの知り合いの西洋人の男たちは、タイ女性のエスコートを頼んでもこういう場所には決して連れて来ない。いつもタイ料理だ。タイ人の行くタイ料理の店ならば、多少値がはろうがエアコンがついていようが、彼女たちが好きなもの、食べ慣れたものをタイ語で注文できるからだ。
そして、西洋料理のとてもカジュアルなレストランなどでは、そういう女性たちのためにタイ料理を少し置いているところもある。あろうことか、近くの屋台から出前まで注文できる。
そうした気の置けない環境で、彼らは身振り手振りを交え、時にはどうしてもわかりあえないときには、店の従業員まで通訳に立ててコミュニケーションをはかろうとする。沈黙はあり得ない。

ここ十年以上観察したわたし個人の経験だが、サービス業の女性たちを高級レストランに連れて行ってゴチソウする日本人男性をかなり頻繁に見かける。そして、あらぬ方角を見つめたり、新聞を読んだり、どうにも気まずそうな沈黙に耐えている。
どうも、「デートとはかくあるべき」という日本の常識にこだわりすぎているんじゃないかなあ。

金を払ったエスコートサービスか「同伴のクラブホステス」かはわからないが、一応は一期一会の「デート」だからだ。「デート」というものは、「彼女」にフトッパラなところを見せるため、日系デパートに連れていって何かアクセサリーのひとつも買ってやるところから始まる。美味しい酒を飲めるところにも行かなければならない。最後に、高級レストランは当たり前だ。それで楽しんでいるかと言うと、なぜか男性たちの顔はうれしそうではない。エスコートの女性たちも、必要以上に大きなディナー皿とフォークを前にして、居心地が悪そうだ。

こういうテーブルが隣にあると、わたしはもう好奇心イッパイで目が離せない。悪いクセだとわかっているんだけれど。

 

3 COMMENTS

MAO

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光景が浮かびますね(笑)。
しかし、日本のそうしたおじさんたちってワンパターンなんですよね。遊びなんだからさ、もっとクリエイティブできないのかな?

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Hatoko

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友達のオージー(男)に「あなただったらどうするよ?」と聞いたら、「僕は後者だなぁー」と言っていました。さらに付け加えて「でも、女の子にしてみれば、高価なアクセサリーでも買ってもらうほうが嬉しいんじゃないの?」と。
見栄か商売か。結局はお互いさまなのかもしれません。

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がび

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>MAOさん
クリエイティブになること自体はそれほど難しくありませんが、ひとと違ったことをして「恥ずかしい思い」をするほうが怖いのかもしれません。
>Hatokoさん
高価なアクセサリーを買ってもらって、彼女たちがどうするか知っていますか?24金のアクセサリーだったら、すぐに「売り」に行きます。どっちもどっちですよねえ、ホント。

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