がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

缶プルトップで義足を作る運動

オフィスで細長い容器一杯の「これ」を見たときには、なんだろう、と不思議に思った。よく見ると、ソフトドリンクの缶についているプルトップであることが わかった。スタッフもわたしも缶ドリンクはよく飲むので、集めだしたらすぐに貯まるだろうが、何故こんなものを集めているのかまだわからなかった。
車 に乗っているときにふとそのことを思い出したので運転手に聞いてみると、「これで義手義足を作るんです」と言う。なんでも、プルトップを溶かして固めて作 り、スラムの貧乏なひとびとに無料で与えて、道端の物乞い以上の仕事を見つけやすいようにする、という民間慈善事業のひとつらしい。現世で善をほどこして 来世ではもっといい生活を、ということに意欲を燃やすタイ中産階級に広まっている動きだそうだが、なるほどリサイクルがこんな形でもできるのか、とちょっ と嬉しくなった。
繁華街で這いつくばって道行くひとびとに手を合わせる身体の不自由な物乞いを見るたびに、胸につかえるものがあったが、決してこ の物乞いに金を与えないように、と言われてきて久しい。こうした物乞いには、裏で動くタイマフィアがついており、毎朝トラックで近くの村のそうしたひとび とを集め、繁華街に落とし、夜に「回収」し、もちろんほとんどの金をピンはねる。一日座って彼らが貰える金は、屋台のラーメン一杯にも値しないという。そ うしたひとたちが、もしたとえどんなブカッコウな手だろうが足だろうが、自分で「動くことのできる手段」を与えられるならば、少しは新しい道が開けるかも しれない。ナイーブだな、と鼻でふんと笑うこともできるが、誰かが何かを始めなければならないなら、こうしたプルトップをちょんとちぎり取ることからでも よいではないか。

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