がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

周りの迷惑に気づかないひと

傍若無人なひとはどこにでもいる。だから、そんなに年中腹をたてているわけにもいかないので、大抵のことは無視するようにしている。だがひとをひととも思わぬ態度にいったん血が上ったら最後、わたしは一言いってやらねば気がすまない性格なのだ。

タ イ航空のエコノミー座席は、身長160cm以上体重50kg以上であったらすでに身動きとれないミニサイズなので、そりゃ大柄なひとが苦労するのはわか る。しかし、わたしの席の前に座った中年男性は、まだベルト着用サインが消えないのに、わたしの鼻先に触るほど思いっきりシートを倒し、タイ歌謡曲のチャ ンネルに合わせたかと思ったらいきなりイヤフォンからボリューム一杯の音楽を洪水のごとく流す。後ろにいたわたしが飛び上がるくらいの音量である。さすが にこれはヒドイと思い、スミマセンがもう少し音量を小さくしてくださることをお願いしてもよろしいアルカ、と非常に丁寧に申し上げた。すると、「ああ」と 少し音量を下げる。しばらくたつと、今度はわたしが映画を見ている画面のド真ん中に新聞を広げて読み出した。老眼だからそんなに腕の長さ一杯に離して読ま ねばならないのだろうが、いかにせんこれではわたしとわたしの隣人の映画鑑賞はどうなるのだ。そこでまた、モシモシそこで新聞を広げられるとアナタの後ろ の席のひとたちは誰も映画を見ることができないのであるが、よろしかったら。。。。と言いかけたら「ちっ」と苛立たしげに舌打ちをする。そこでアタマにき た。そしてほんとうにドタマにくると、わたしの英語はいきなり秒速100連発を記録する。

「あなた、ちょっと舌打ちするとはなんですか。こちらは アクマでも丁寧にお願い申し上げているというのに。だいたいこんな狭いエコノミーの席では、周りのひとに気を使わなければならないのは常識でしょうが。他 人が自分のために迷惑していることを指摘されたら謝るのもまた常識でしょう? あなた、一体オイクツですか? どうしても新聞を高々と上げて読みたいな ら、ファーストクラスの一番ウシロの席でエコノミの3倍の料金を払ってたのしんでくださいな。」
怒鳴っているわけではないしあくまで穏やかに言ってはいたが、わたしの「冷ややかな」早口に見知らぬ隣人は自分が怒られているかのように固くなり、当の前の座席のオヤジは「ふん」と言っただけで小さくなった。

そ の後、税関出口の「申告なし」で長い列に加わっていると、またそのオヤジがわたしの横を通り過ぎた。今度はあろうことか、はるか前のほうで横からの強引な 割り込みに来たらしい。遠すぎて叫ぶわけにもいかず、静かな怒りに身をまかせていたら、オヤジは気弱な日本人が空けてやった隙間にうまくもぐりこむ。
そして、ひっかかった。
巨大な汚いスーツケースとボストンバックに目をつけた税関の係員に止められ、脇に連れていかれる。さて、これでゆうに10分はたっぷり荷物検査をされるわけだ。

因果応報因果応報、と呟きながら、わたしは溜飲をさげてバンコク・ドンムアン国際空港の外に出た。

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