がびのテラス - 軽妙にして辛辣、独断にして優雅に

クリスマス・イブの味噌バターチキンロースト

スイスでは12月24日はまだ皆働いていて、夜は軽い食事を済ませてから教会へ行く日だ。真っ白な雪を踏みしめながら、きりりと寒い夜道を教会の鐘の音を聞きながら歩く。道の両側の家々では窓が美しく飾られ、蝋燭の火がキラキラと揺らめく。夏の美しい風景も好きだが、わたしはスイスと言うとなぜかこの厳粛で静かで寒いクリスマス・イブの晩を思い出す。

…などと書いているが、現在わたしが滞在しているのはタイのバンコクだ。毎年クリスマスはバンコクで過ごすので、24日晩のクリスマスディナーは必ず自分でつくる。

今年は少し趣向を変えて、アジア風にしてみることにした。つまり、Stuffingと呼ばれる詰めものを生パン粉から白飯に替え、材料にも味噌を加えた。味噌とバターがよく合うのは日本でもおなじみだ。

材料を山のように買い、夕方になってからカンパリソーダを飲みながら作り始めた。BGMはもちろんクリスマスソングである。

まずは詰めもの。
玉ねぎはザク切り、ニンニクはスライス、ショウガは千切り、赤トウガラシは小口切りに。それを5分ほどオリーブオイルで炒めてから、鶏挽き肉、シイタケとキクラゲのザク切りを加えてさらに炒め、そこに酒を加えてアルコールを飛ばし、味噌を多少多めに入れて、オイスターソースもたらす。ひと煮立ちさせたら火を止める。材料はいつものように適当なので、味をみながら「もう少し塩気がないとごはんを混ぜるからなあ」とオイスターソースをもう少し足してみる。

ボウルに具を入れ、硬めに炊いたタイ米(ジャスミン米)を茶碗に大盛り三杯ほど加え、ごはんが潰れないようにサクサクと混ぜ合わせる。パクチーとスイートバジルを刻んで加え、ここでまた味をみて「あ、やっぱりもう少し塩気が…」というわけで、醤油まで出してきてグルリと回しかけた。いい加減な料理だ。詰めものはそのままボウルの中で冷ましておく。もちろん行儀悪く手で少し口に放り込んで味見をしているので、味は完璧だ。うん。

さて、今回は味噌バター味なので、バターを湯煎にしてから同量の味噌を加えてガンガンと混ぜる。トロリとしたところでこれもまた冷ましておく。

次は丸鶏だ。冷水で中まできれいに洗い水気を拭き取った。そして、そおっとお尻のほうから胸の皮と肉の間に指を入れて隙間を作っておく。味噌バターはここにもタップリとすりこむので。ついでにパクチーをひとふさちぎって両胸の皮の下に滑り込ませる。味噌バターがどのくらい色をつけるかわからないので、出来上がったら見えないかもしれないが、取りあえず。

あとは詰めものをぎゅうぎゅうと…あ、しまった、卵を忘れた。詰めものは残りを丸めてローストしてしまうので、つなぎが必要なのだ。で、丸い卵をカウンターの上につい置いたら、もちろん落ちた。あー。

気を取り直して床を拭き、カンパリソーダをあおり、詰めものをぎゅうぎゅうと下から押し込み、パンパンになったところで皮でフタをしてから、楊枝で留めた。あとは、残りの味噌バターをまんべんなく塗りたくるだけ。天板にはニンジンの細切りをまるでイカダのごとく並べ、その上に鶏を置いた。丸鶏の脂がその間から落ちる仕掛けだ。ニンジンにも鶏の肉汁がかかり、あとで美味しく食べられる。

あとは180度のオーブンに入れて、焼き加減を見ながら1時間ほど。わたしは25分ぐらいたったところで、また味噌バターを塗り、今度はアルミホイルをふわりとかけてまたオーブンに戻した。

詰めものの残りは丸めて別のオーブン皿に並べ、最後の15分間だけオーブンで軽く焼いた。

ところで、わたしはこの写真にもあるように肉に刺す温度計を必ず使う。そして、肉の大きさに関わらず、目盛りの温度より大体10度ほど低くなったときに出してしまう。それからアルミホイルでしっかり包み、10分ほど置くのだ。こうすると肉の表面が乾かないし、まだ中では肉がちょうどよく焼けているからだ。焼きすぎでカラカラに乾くのは、目盛りきっちりの温度になるまでオーブンで焼き、あとは出して放置するせいなんだけどね。

さて、実は焼いている間にすでに前菜に手をつけている。スモークサーモンのグラブラックスだ。香辛料でマリネしてあるもので、今回は西洋ワサビ(ホースラディッシュ)抜きで、ディル、シャロット、ケイパーにライムを添えてシンプルに。

お待ちかねの丸鶏の味噌バターローストはこんな感じ。
皮は味噌バターのせいでカリカリに仕上がっている。

中から詰めもののごはんを掻き出したら、これが何とまあ美味しいこと。そりゃそうだ、鶏の肉汁と脂が焼いているうちにじっくりとからみついたのだから。わたしはどちらかというと、鶏肉よりこのごはんをもっと食べたかったくらいだ。

鶏肉は味噌バターの香りがふんわりと鼻をくすぐる。ジューシーで柔らかく仕上がっていた。

ワインは南オーストラリアのグラント・バージから2010年コリトンパークのカベルネ・ソーヴィニヨン。果実の香りが強いミディアムボディのワインだ。

デザートも、もちろんクリスマスのお約束だ。そして今年は昭和が香るクリスマスケーキ。いや、バンコクにだってもっと色々なケーキが沢山あるけれど、ケーキのことを思い出したのが夕方でこれしか残っていなかったのだ。

懐かしいイチゴのショートケーキ…のクリスマスバージョン。小さなローソクもつけてくれたので、まるで小学校のときの誕生日パーティみたいに。
でもふんわりと柔らかくて懐かしくて美味しかった。甘さも控えめで優しい味だ。

暑い国のクリスマスだが、ここ数日はエアコンなしで快適な夜を過ごせているバンコクだ。お腹もくちくなったクリスマス・イブの夜は、食後酒のキルシュワッサーを小さなグラスに一杯ちびちびと飲みながら更けていった。
I wish you a merry Christmas!

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