エカマイの Cuisine de Garden

「エカマイに変わったレストランができたよ」とスイス人の友達が言った。何しろ料理はコースがひとつだけ、フロアには本物の木が何本か植えてある。ものすごく芸術的な料理だよ、一度は「見た」ほうがいいよ、と。芸術的な料理というのが気になって、3日早い誕生日のディナーとなった。

 

メニューを見ると、なるほどフルコース料理がひとつしかない。ただし、そのコースはチャプターが4つあり、チャプターごとに3つの料理の中からひとつ選べるようになっている。全て選んでさてワインは…と思ったら、10月5日はオーク・パンサーだった。仏教の「出安居(しゅつあんご)」で酒類禁止の日である。ワインが飲めない。他のテーブルも皆ミネラルウォーターだけしか置いていない。がっかりしたが、まあ酒なしでも料理は楽しめるから、と気を取り直した。

最初はまず自家製の温かいパン。ヨーグルトのように多少酸っぱいクリームが添えられている。皿は本物の木の葉だ。

次に出てきたのはアミューズ・ブッシュと呼ばれるレストランで最初に供されるひとくち大のオードブルだ。タイ料理でよく使われるこぶみかんの味を基調として、左の海老、二番目はムール貝と海藻に泡立てただし汁がかかっていて、黒い貝殻ふうのビスケットも食べられる。三番目はこぶみかんの葉の上に鮭のタルタル、そして最後はライム・ジュースをからめた蟹肉がこぶみかんの実の上に載っている。「左から段々にこぶみかんの味が強くなっていますので左から召し上がってください」とのこと。

さて、ここまでが前菜で、次は3つの中から注文したチャプター1が始まる。わたしの1の皿はSeacret(海の幸とシークレットをかけているタイトル)で、北海道産のホタテ、隼人瓜(はやとうり)、赤い海藻の上に泡立てたゆずジュース。そこに出し汁がかけてある。

もうひとつはRain Forest(レインフォレスト)で、牛肉のタルタル、ビーフ味のチュイール、卵の黄身のソース。

チャプター2はNest(巣)だ。さて何が出てくるのかと思ったら、これ。

温泉卵がカリカリに揚げたビーフンの巣に載っていて、その下にはキノコと鶏肉のミックス。カリカリに揚げたゴボウも添えてあった。どうやって食べるのかわからず、とりあえずウェイターに割ってもらうと…

なんと美しい。
これを崩して下のビーフンと鶏肉とキノコとともに口に運ぶ。ちなみに、殻は一緒についてきたカゴの中へ。

こちらも巣の中ということか。上手い。

もうひとつのチャプター2はEclipse(日食)で、 ドライアンチョビ入りの大麦のリゾットと菊芋(キクイモ)スライス。

次のチャプター3がメインだ。わたしのはWater Lilies(睡蓮)で、オヒョウのグリルに蓮の茎、花、実全てが調理され、セリの一種であるペニーワートのジュースで緑色のソースが作られている。こちらはモネのスイレンの色をイメージしているとのことだ。なるほど。配色が美しい。

もうひとつの皿はVermilion(朱色)で、こちらは鴨肉のコンフィ、ビーツとビーツを使ったソースが添えられている。

最後のチャプター4はデザートだ。わたしが注文したのはBloom(花盛り)で、グァバのシャーベットに小さなブリオッシュとマウンテンハーブが添えられている。

あとの皿はFarm(農場)。ヤギ乳のパンナコッタにマカデミアナッツと蜂蜜巣が添えられている。

最後はStone(石)。その名の通り黒い小石が詰められた箱が出てきた。4つだけチョコレート・トリュフが入っていて、確かめてから食べてくださいねと念を押される。ただし見つけるのは簡単だ。チョコレートだけは汗をかいていたので。

自然をコンセプトとして、タイと世界中の珍しい食材を使い、あくまでも美しく芸術的で、発想豊かなコースだった。確かに不思議な料理である。
見ただけでは何だかわからないので、その都度英語が達者なウェイターが説明してくれる。これがまた面白い。聞き返せばその食材がどこで採れるか、またオリジナルがどんな形をしているのかも教えてもらえて、とても楽しかった。

コースは季節ごとに全て入れ替わるので、わたしたちが食べたのは「秋のコース」だったらしい。次の新しいメニューは11月末に始まるとのことだった。

素材の味を生かしていて、目にも舌にも優しい料理だ。確かに毎日食べたいという普段の食事とはかけ離れていて、素材の珍しさと使い方に目と舌を驚かせ、楽しませてくれる料理と雰囲気だった。一度はお試しを。

エカマイ・パークレーンの白金・酉玉

エカマイもわたしが住み始めたころに比べると、あれよあれよと言う間にスタイリッシュなレストランやカフェ、ショッピングセンターなどがずいぶん増えた。歩いて行けるほど近い場所にも素敵なレストランが色々とあり、最近では遠出をしなくとも近所で間に合わせることが多い。

さて、今回はバンコクに住むスイス人ビジネス旧友から聞いた「白金・酉玉(しろかね・とりたま)」だ。日本人だけではなくタイ人も白人の客もかなりいるようで、和食・焼き鳥の威力を感じる。
パークレーンというスーパーとブティック、そしてレストランの集まった雑居ビル内にあり、エカマイ通りに面した「折原商店」という日本酒バーの裏にあるレストランだ。

焼き鳥というより落ち着いたクラブのような雰囲気で、低く流れている音楽もゆったりとしたジャズだ。居心地がいい。日系の会社がいくつか予約していたようで、立ちんぼでの名刺交換やお辞儀が繰り返され、ここらへんは「和風ビジネス接待」の模様が懐かしい。

メニューはもちろん焼き鳥が主で、鶏の部分の名前と説明が詳しく、わたしもずいぶん知らない部位が沢山あってビックリ。今回は「シェフのおまかせコース」の焼き鳥10本というセットを注文してみた。どんなものが出てくるか興味があったからだ。

おまかせコースには、大根おろしと豆腐の冷奴がセットでついている。なんだかシンプル過ぎて芸がないなあとは思ったが、箸休めにはちょうどよかった。

おまかせコースには他のものがついていないので、取りあえず「海苔サラダ」を。レタスとキュウリのサラダにたっぷり刻み海苔が載っていた。名前どおりなのだが、これもシンプルすぎてちょっと当てが外れた気分。そして、どこから何を取ろうとも絶対に海苔がハラハラと万遍なく四方八方に飛び散る盛り付け。うーん。

さて、焼鳥だ。これはやはり鶏肉の選択と新鮮さで他店とは比べ物にならないくらい美味しい。

つくねとズッキーニ。

ささみの三つ葉巻きと柔らかいもも肉(だと思う)。

ここらへんから次々に出てきて何が何だか。でも、美味しい。

砂肝とうずらの卵。

こちらは追加で注文した銀皮という砂肝のみみ。柔らかくて味も濃い。こういう珍しい部位も別々に食べられるところがやはり専門店だなあと感心してしまった。

そして、こちらがスイス人2人が同時に注文した「ラクレットチーズのいなり包み」。そりゃラクレット自体がスイスチーズなので、本場からきたひとたちはどうしても試してみたかったらしい。

わたしもひとくちだけかじらせてもらったが、これは…失敗だった。パリパリになった油揚げは歯ざわりがいいのでよしとしよう。だが、油揚げの内側に貼り付いてやはりパリパリになったラクレットは、率直に言って香り以外は焼きすぎて油が出てしまいチーズの原型をとどめていない。つまり「ラクレット味の油揚げ」でしかない。これには「スイスチーズの専門家たち」の顔がみるみると曇ってしまい、彼らは何も言わなかったがたぶんラクレットチーズの量があまりにも少ないのと焼きすぎたのが理由だと思う。ラクレットは分厚く切って温めるとびよーんと伸びるほど柔らかく弾力が出るのが特色で、焼きすぎると脂分が分離してカラカラに乾いてしまう。これなら他のチーズを使ったほうがよかったのではないか。ほかのものが美味しかっただけに残念だった。

味に関しては(ラクレットのいなり包み以外は)満足だったが、サービスでひとつだけ、そしてここを手放しでお勧めできないのはそのせいなのだが、改善してほしいことがあった。
10本コースなら1本ずつ焼きたてを食べられると、客は普通思う。食事というのは酒を飲み、会話を楽しみ、そして焼きたての焼き鳥をつまむことだと、普通は思う。特に「高級」を冠した焼き鳥専門店と言うからには、客のペースを見て焼きたてを供するサービスを期待している。

ところが、それがこの店ではできていない。

焼き鳥は焼けた順に次々と皿に載せられ、それも一度に2−3本ずつということが多かった。楽しみながらひとつひとつつまむと言うより、背中を押されているような気分だ。最後の1本が来て「これで最後です」と言われたとき、わたしの皿の上にはサラダをつまんでいる間に冷めてしまった焼き鳥がまだ4本も残っていた。
結局最初の1本から10本目が来るまでの時間はたった30分だ。これでは食事を楽しむどころの話ではない。大勢で来て色々と注文する焼き鳥とは違い、これはコースだ。つまり、客は出てきた全ての10本をひとりで食べなければならない。3本同時に来ては、どれかひとつは確実に冷めてしまう。

「おまかせ」というのは店の自慢の新鮮なものをあしらったコースなのだから、もう少し気配りが欲しかったし、客が焼き鳥を焼き立てのまま食べられないのは店にとっても残念ではないのか。

つまり、「冷めた焼き鳥を食べるくらいなら」アラカルトで1本ずつ注文したほうがよかった。また行くことがあればもう「おまかせコース」を注文しないのは確実。最後に追加で注文した「銀皮」は焼きたてを楽しめたし、「ラクレットチーズのいなり焼き」は反対に15分ほど待たされたのだから。

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バンコクの散歩は命がけなのか…

買い物のあとエカマイの駅で降りてから、さてタクシーを拾うにはどこがいいかとグルリと見渡したら…そう言えばこのごろバンコクで外を歩いたことがなかったな、と思い出した。
別に雨が降っているわけでもなし、多少荷物がじゃまだが歩けないほどではない。Googleで調べてみたら1.5キロ。ぶらぶら歩いても30分はかからない。よし。

歩きだしたら周りのタイ人たちをどんどん追い抜いてしまうほど、はるかにわたしの足のほうが速い。これはセカセカしているということなので、速度を落として本当に「ぶらぶらと」歩き始めた。タイ人は急がなければならないときにはバイクタクシーなどを使う。歩くときはもうゆっくりと亀の如き速度だ。常夏の国ではセカセカと走るように歩いたら体力を消耗して疲れてしまうし、いいことなんか何もない。今ではタイ人の中にも「セカセカ人」が増えたが、それでも時間にルーズなひとのほうが多いのもこの「ゆっくり行こうよ」という国民性のせいかもしれない。

そして、速度を落として歩くと周りの風景が見え始める。
車の中から見るだけだった珈琲店やその隣の北タイ料理店が面白そうだ。韓国料理の一膳飯屋もある。何ヶ月か前にサンドイッチを買ってみたイギリス人の店はすでにつぶれてしまったようだ。新しい和風の喫茶店は、シンプルで真っ白な内装で洒落ている。

建設の始まったコンドミニアムは分譲27平方メートルのスタジオタイプから。これだけ小さいのは最近始まった流行だが、自分で住むために買うひとが一体どれくらいいるのだろう。たぶん投資なのだろうが、供給が過剰になっている今賃貸がそれほど期待できるとは思えない。投資というより、よく言われている金持ちの「じゃまな現金の隠し金庫」なのだろうなあ。

しかし、歩いてみるとわかるが、バンコクの「歩道」は通行人にはとても不便だ。なにしろ歩道が平らではない。つくりが悪いから、デコボコしていて今回歩いてみただけで2度ほどころびそうになり、おっとっと。危ない、危ない。

以前歩いたときには本当に足をとられて足首がぐにゃりとなり、歩道に手をついてしまった。あのときは痛かった。だからバンコクの「舗装された歩道」では必ず下を見て歩かなければならない。うつむいて、ゆっくりゆっくりと亀のように進む。前のひとを追い越すほどスピードを上げてはいけない。
昔住んだパリでも下を見て歩かなければならなかったが、あれは「犬のウンチ」のせいだった。

しかし、通行人というものはここでは街路樹より下の扱いだ。大体こんなふうにキレイに剪定された街路樹のほうが幅を利かせている。こんなものにお金をかけるくらいなら、歩行者道の舗装を何とかしてほしいと思うが、歩いているひとたちはあまり気にかけるふうでもない。

ひとがすれ違えるほどの幅がないので、大体向こうからやってくるひとがいたらどちらが先に着くかを見極めて、ささっとどいたり先に行ったりするわけだ。

もっとひどいのはコチラ。ひと1人さえまともに通れない。カニさん歩きである。もうあまりにもひどすぎて笑ってしまった。
雨季に傘なんぞ差していたら引っかかりそうだ。

タイでは土地神様として木も祀られていることが多いので、これだけの巨木を交通の激しい道沿いにどでーんと残しておくのはそのせいなのかもしれない。

このエカマイ道は車もバイクもかなりスピードを出して突っ走っているので、わたしのようにたまにしか歩かないナマケモノには危ないことこの上ない。以前なかなか渡れないわたしを見て、すでに渡ってしまった友達が戻ってきて手を繋いで一緒に渡ってくれた。まるで老人である。だって、コワイんだもん。今日は最初から右側を歩いてきたが、これなら道を渡らずに家に帰れるからだ。

さて、角を曲がればもうわたしのマンションはすぐだ。
門番のガードマンが不思議そうにわたしを見て、やっと気がついて挨拶した。いつもは車かタクシーなのでなんだかビックリしてしまったのだろう。

ロビーに入ったら今度はいつもは管理人室にいるスタッフのひとりがいて「あらまあ、歩いてきたんですか…顔が真っ赤」とにこやかに挨拶してくれた。そんなに赤いかな、と部屋に入って鏡を見たらなるほど真っ赤だった。バンコクの温度は34度だったから、そりゃ暑いし当然だ。髪の毛も風に吹かれてバサバサ。今度歩くときは髪はまとめてヘアバンドで留めて準備して行かなければね。

でも、ホントのところは楽しかったのである。やはり散歩はいいなあと思うのはこんなとき。そのあとシャワーを浴びてさっぱりしてからテラスでビールを飲んでいるときも含めてだが。