バースウッド・クラウンプラザのRockpool Bar & Grill

バースウッド(Burswood)は近所なのでよく散歩にも行く。ただしわたしがパースに住み始めたころと違い、開発が進んでホテルは巨大になり、劇場、カジノ、アパート、競技場が立ち並び、昔の面影はとうにない。便利になりはしたが、鬱蒼と茂った林の風情は消えてしまったと言うところか。
昔はBurswood Resort Hotelという名だったが、現在ではCrown Plazaという名で営業していて、東のシドニーやメルボルンからの高級レストランが次々と開店した。

ロックプール(Rockpool Bar&Grill)もそのひとつで、テレビでも有名なオーナーシェフ、ニール・ペリーの店だ。長く熟成させたオージービーフのステーキがメインで、東側にはシドニーの本店とメルボルンの支店があるが、西ではこのパース支店のみの営業だ。

メニューに品数が多く、めんくらうほど分厚いワインリストもあって、結局はシェフお勧めのTasting Courseにしようということになった。こちらはワインなしとそれぞれの皿に合ったワイン付きとの二種類がある。

月曜日が祝日ということもあってか、レストランは満席だ。案内された席に座ってメニューを渡され、しばらく待つ。ようやく水のコップが出てきたのが10分後。しびれを切らして手を挙げたら、やっとスタッフが注文を取りにきた。座ってから実に20分後である。忙しいのは分かるが、高級レストランにしては対応がお粗末だ。

さて、シェフからの無料サービスで供された皿には、なんとスライダーが。手のひらに載るほどの小さなハンバーガーのことだ。しかし小さいと言えど、しっかりとした挽肉のステーキに飴色に炒めた甘い玉ねぎチャツネが挟んである。こんなのを最初から出されて、果たしてわたしはコース料理を全て消化できるのか心配になったが、それでもひとくち味わうとイヤに美味しく、結局はささっと平らげてしまった。手で食べるものなので、温かいオシボリが同時に出されていたのは気が利いている。

コース料理の最初は…あらら「マグロのタルタル、モロッコ風ナス添え」と書いてあったが、今日は違うものになっていた。

三色の刺し身はキングフィッシュ(ブリ科でヒラマサによく似ている)、サーモン、そしてビッグアイと呼ばれるマグロ。それにネギ、大葉、唐辛子のスパイスに塩味を効かせたオリーブオイルがかけられている。「左のキングフィッシュから順番に右へと召し上がってください」と言われて従ったが、味の違いを楽しめということだったのか。
ワインはビクトリア産のリースリング。ニール・ペリーが特別に作らせているワインのようで市販されていない。

次に出てきたのは軽く炒めた大ぶりのエビと山羊チーズをくるんだトルテリーニ。

絶品だった。
新鮮なエビの甘みが、ふっくらとしたトルテリーニとその中に閉じ込められた山羊チーズの味と相まって見事なハーモニー。合わせてあったワインはビクトリア産Craigleeのシャルドネも、バタースコッチのような香りで楽しめた。最初の刺し身とこのエビの皿の間がかなり開いていたので、ワインは太っ腹にも足してくれていたので、実質2杯飲んでしまったことになる。

メインはもちろんステーキだ。

写真は…あまりにも暗くてよく見えなかったので加工してある。左の二切れが36ヶ月熟成させたフィレ肉で、左の三切れがなんと60ヶ月熟成させた骨付きリブアイだ。どちらのステーキも、合成飼料ではなく牧草のみを食ませた牛からのものだ。
焼き方は炭火で、どちらかというと周りがパリパリになるまで強火を当て、それから客の好みによって中に火を通しているようだ。わたしのはミディアム・レアだったが、光に当ててよく見ると感心するほど完璧なミディアム・レアだった。

きちんと火は通っているが少々濃い目のバラ色で、歯ざわりのよいしっかりとしたフィレ肉だ。そして、右側のリブアイ。60ヶ月間(つまり5年間)特殊な冷蔵室に寝かされた肉は水分が抜け、肉の旨味が高まるという。それをメインにしているだけあって、これは非常に美味しい。神戸ビーフなどに代表される日本の牛肉は柔らかさが特色だが、オージービーフはそうした繊細な歯ざわりを目的とせず、もっと原始的な肉を噛みしめる喜びを謳ったものと言える。その旨味は噛めば噛むほど口いっぱいに広がって、なるほど本当のオージービーフとはこういうものかと唸ってしまった。

ワインはPaul Nelsonの2013年カベルネ・ソーヴィニヨン。西オーストラリア州デンマークの小さなワイナリーだが、グレートサウザンのワインの歴史を継ぐ深みのあるルビー色の柔らかなカベルネを産出しているワイナリーだ。

付け合せはチポトレバターとマンチェゴチーズをあわせたコーンクリーム。トウモロコシは調理場で焼かれた香ばしさがある。そして、ラディッキオとエンダイブのサラダ。ドレッシングはパルムシュガーを使っているとのことで、少々甘さがあり、こってりとしたコーンクリームとステーキの口なおしに最適だった。

もうこのころは最初に座ったときから3時間ほど。時刻は10時をとうに過ぎている。ワインの酔いもあり、少々眠くなってきたところに出てきたのがこのデザート。

ウソでしょ…と思うくらい巨大なパッションフルーツのパブロバ。高さはゆうに20センチ以上ある。ひえーっとビックリしたら、デザートワインを注ぎにきたソムリエが「軽い卵白のデザートで口の中で溶けてしまうし大丈夫ですよ」と微笑む。いや、いくら軽い卵白でも…。案の定半分食べたらとてももう入らない。美味しいけれどそこで断念。
デザートワインはこれもニール・ペリー特製のリースリングから。

珈琲はエスプレッソを頼んだ。これなら入る。いつものように砂糖を二杯入れてぐいっとふたくちだ。こういう飲み方は初めてフランスに行ったときから変わらない。キャラメルの軽いお菓子が添えられていたが、とても手が出なかった。

レストランの外に出ると、すでに11時だ。なんと4時間ものディナーで、わたしはもう目を開けているのさえ辛い。車で帰る友達がロビーでブレスライザー(息を吹きかけて体内のアルコール濃度を検査できるもの)で自分のアルコール量を検査している。オーストラリアの法律では、0.05ミリ以上のアルコール血中濃度は飲酒運転の対象になるからだ。彼のは0.017ミリで合格。続いてわたしもチェックしてもらったら、なんと0.058ミリ。ほとんど同じ量の酒を飲んでいたのに、これで運転したらりっぱな飲酒運転だ。体の大きさでアルコール血中濃度は違うのだな、と改めて思った。やはり運転するときは、わたしの大きさでは「ワイン1杯を1時間かけて」というのが限度のようだ。

さて肝心のレストランだが、最初から小さなハンバーガーが出てくるし、大食いのわたしでさえ少しずつ残していたのにもかかわらず、次の日まで残るほどの胃もたれが待っていた。つまり、食べ過ぎである。今度行くときは、軽い前菜ひとつに一番小さい200グラムのステーキ、そしてデザートなしで行ったほうがいいと思う。…などと言いながら、いつもシェフのお勧めコースを頼んでしまうんだよね。特に初めてのレストランでは。

オージービーフは日本では「安いけど固くて」というコメントが多いが、オーストラリアで一度はこうした5年熟成の「本物のオージービーフ」というのも試してみてほしい。

ノースブリッジのThe Standard

パースのNorthbridge(ノースブリッジ)は、バックパッカーの安宿もあり観光客で賑わう一角だ。安く食べられる店や若者たちのためのクラブやパブなどが混在していて、夜になれば平日でもひとの多い娯楽街と言える。

それでも駅の近くには博物館、美術館、そして数年前に新しく建てられた州立劇場が並び、その周辺には少々雰囲気の違うトレンディーなバーやレストランがポツポツとでき始めた。

The Standardは州立劇場で舞台を提供するブラック・スワン劇団と同じ系列経営のバー・レストランだ。昔衝撃をうけたサミュエル・ベケットの作品「エンドゲーム」を上演している州立劇場からは、歩いて2−3分。

ここではバーも充実しているし、料理もモダンでアジア風の味を取り入れた皿を供していて、その他にもショーメニューという観劇直前の早い時間帯にさっと食べられるコース料理がある。

オーストラリアの舞台は日本と違い、そのほとんどが7時半、8時という時間に始まる。普段の食事とは別に、劇場近くのレストランやパブでショーメニューという特別なコースを用意しているのはそのためだ。
大体1時間から1時間半で終えるような前菜と主菜、または前菜、主菜、デザートがセットになっている。スタッフも心得たもので、こうしたショーメニューの場合は、客が上演時間に遅れないように気をつけてサービスをしている。

The Standardのショーメニューは前菜・主菜・デザートともに3つのメニューから選べるようになっている。今回わたしが注文したのはデザートなしで前菜と主菜のみ。白ワインはボトルで西オーストラリア・デンマーク(ヨーロッパの国の名前と同じだが、こちらは西オーストラリア南部でワインで有名な地域)のRockcliffeの2016年Third Reefシャルドネを頼んだ。スパイシーで少々苦みばしった味の辛口。

前菜は、帆立貝のセヴィーチェ、茶そば、大根とわかめ。

薄切りにした帆立貝は新鮮で甘みがあるが、セヴィーチェにしてはレモンの酸っぱさが香りだけしかないと思ったら、その下にある茶そばがレモン汁で和えてあった。わかめは食感を出すためかカリカリにローストしてある。最近フュージョン料理でよくみる茶そばだが、こんなふうに使うのもおもしろいと思った。

主菜は韓国風バーベキューチキン、ビーフン、ハーブサラダ。

甘辛くマリネしたチキンは柔らかくて、上から振りかけたピーナッツとよく合う。これにちょいと辛味噌をつけて、ビーフンとからめて食べる。そして口直しに、バジルと大根のサラダだ。これは本当に美味しかったので、いつか真似してみたい。

友達が注文した主菜は、ラムの脇腹肉(ベリー)のグリルと腰肉(ロイン)の燻製、コールラビのピクルスとコーンブレッド。

味見をさせてもらったが、ラム肉の燻製がちょっと変わった味だ。燻製だけは自分でつくったことがないのでよくわからないが、スパイスと茶で燻しているのかもしれない。こちらもまた今度は自分で注文してみたい一皿だ。

食事もさることながら、友達もわたしもバーテンダーとホールのスタッフたちに目を奪われてしまった。実際この店は容姿でスタッフを選んでいるのかと思うほど、美男美女が多い。

以前酒を飲みに寄ったことがあるだけだったが、今回コースで料理を頼んでみて、こりゃもう一度ゆっくりと食事(と美しいスタッフたちとのおしゃべり)を楽しみに来なければと思った。

 

ヴィクトリアパークのSilk Road Uyghur Cuisine

近所にウイグル料理の店ができた。
シルクロードという名前からしてエキゾチックだが、たぶん中央アジアの料理なのだろうなと思いながら入ってみた。

比較的早い時間だったので、わたしたちの他には2組しかいない。さてどんな料理だろうとメニューを開いたら、すぐにピーナッツと甘いポップコーンの小皿に水のボトルが出てきた。ワインかビールでも飲みたくなるところだが、ウイグル自体がイスラム教徒の地域なのでアルコールはおいていない。オーストラリアのほとんどのレストランでは、持参したアルコール類をコルケージ(持ち込み料)付きで飲めるが、そうした表示も全くない。
わたしたちが会計をし始めるころに入ってきた客はワインのボトルを持っていたが、どうもそんな雰囲気ではないことを察して、早々にバッグに戻してしまった。

ウイグル族はトルコ系少数民族で、新疆ウイグル自治区やカザフスタン・キルギス・ウズベキスタンなど中央アジアに居住するひとたちだ。敬虔なイスラム教徒でもあり、モンゴル族と同じく独立を目指しての衝突が中華人民共和国内で今も勃発している地域だ。

サービスをしてくれる責任者の女性はエキゾチックな風貌で、とても美しい。
飲み物は勧められたウイグル風ホームメイドのヨーグルトドリンクにしてみた。甘いのと甘くないのと両方あり、これはどちらも美味しい。ねっとりとしていてコクがある。甘くないほうは銅製のカップで供され、甘いほうは普通のグラスに入っていた。

最初に出てきたのはPermudeというラム肉と野菜を包んだ小さなパイ。ふたくちで食べられるくらいの量だ。中華料理によくある餃子のようだが、スパイスが効いていて味はかなり違う。

こちらがメインのジーケワップ(Zih Kewap)。ラム肉の串焼きだ。ウイグルのスパイスで味付けして、炭火で焼いたこの店の名物だ。鉄串は40cmほどの長いもので、隣のテーブルの男性たちは豪快にそのまま口に運んでいたが、鉄串の切っ先が唇に刺さりそうで、わたしはフォークを使って串から外してから口に運んだ。

これが予想外に「おお」と声が出るほど美味しい。スパイスの馥郁たる香りと味もさることながら、肉自体がとても柔らかくてジューシーなのだ。ラム肉の匂いが嫌いなひとでもたぶん食べられるのではないかと思う。それほどマリネもしっかりとしてあって、いくらでも食べられそうだ。

付け合せに注文したのは、ガーリックナン。作り方が違うのか、インド料理店のもちもちとしたナンに比べるとパンに近い。

同じく付け合せとして出てきたのが、ポロ(Polo)と呼ばれるウイグル風ピラフ。ニンジンが沢山入っていて色も美しい。

こちらはパディチサラダ(Padichi Salad)。細かく刻んだトマト、キュウリ、赤玉ねぎ、パプリカ、パセリがドレッシングで和えてある。さっぱりとしていて歯ざわりもよく、こってりとしたラムやニンジンピラフにとてもよく合う。

これだけ食べてしまうと、残念ながらデザートはとてもじゃないが入らない。メニューだけ見せてもらうと、ギリシャ料理やトルコ料理やインド料理にもあるバクラヴァ(Baklava)の名があった。やはりシルクロードだ。

エキゾチックで壮大なシルクロードに思いを馳せ、腹いっぱいの幸福な気分を抱えて店をあとにした。